水晶公の身を案じる声が、ひときわ静かな熱を帯びていた。
「心血を注いでくれてるんだ」とサンクレッドは言った。
わたしたちも、気がかりを残さず帰るために――今、できることを果たすべきなのだと。
最も厄介な存在は、やはりアシエン・エリディブス。
まずは、その手先である黒仮面のアシエンたちを排除すべく、サンクレッドとアルフィノはユールモア方面の行動に出る。
それと並行して、わたしはアニドラスへ。
ひとり調査を続けるヤ・シュトラと合流し、彼女の身に何か異変が起きていないか、確かめてほしいと託された。
「悪いな、彼女のことは任せたぞ」
そう言って、サンクレッドは小さく笑った。
信頼と不安とが入り混じったまなざしに、わたしもまた、静かに頷く。
コルシア島のヴェンモント造船所を訪ねれば、アニドラスのある海域まで船を出してもらえるはずだ――アルフィノの助言が背を押した。
その出発を前に、荷物を点検する。
ふと目に入ったのは、原初世界からこちらに持ち帰ってきた小さな小包だった。
タタルが託してくれた、懐かしい「賢人パン」。
かつて暁の面々が共に囲んだ、あのささやかな味の記憶。
「これは……賢人パンですね」
包みをのぞいたウリエンジェの表情が、ほんのり和らぐ。
リーンも目を輝かせて、「ひとくち、いいですか?」と尋ねた。
サンクレッドは口を引き結び、「……過度な期待はするなよ」と冗談めかす。
アルフィノがシャーレアン時代の思い出を語りかければ、アリゼーが慌ててその口をふさぐ。
「それ以上は、全学生の不興を買うわよ……」
笑いとぬくもりが、ひととき辺りを満たしていく。
この空気を守りたい。
だからこそ、ヤ・シュトラの身を案じる心に、迷いはなかった。