罪の記憶と、残されたもの
──ビターミルで発見された金属製の容器。それが何を意味するのか、すでに答えは出ていた。
「黒薔薇」。
エオルゼア全土を覆い尽くすはずだった、死の化学兵器。
その実験場として選ばれたのが、かつて消息を絶った捕虜たちのいた村だった。
真実を知ったところで、過去は変わらない。
村に住んでいた者たちは、毒によって命を奪われた。
そして、その兵器を生み出したのが──今は記憶を失った「グリエルメ」という男だった。
タラ・モルコー少牙士が静かに呟いた。
「……自分が誰だかわからなくなったとしても、犯した罪が消えるわけではないんですね……」
彼の言葉は、まるで宙を舞う灰のように重く、沈黙の中に溶けていった。
罪とは何なのか。
贖罪とは、どうすれば果たされるのか。
過去を忘れた男は、どんな夢を見るのだろう。
己の手が何を生み出したのかも知らぬまま、生き続けることは果たして幸せなのか。
しかし、こうも思う。
記憶を失ってもなお、ビターミルに辿り着いた彼には、何かしらの無意識があったのではないか。
滅びた村へと戻ったのは、罪の記憶に引き寄せられた結果なのかもしれない。
「……あんな物があったら、いつまたそれを利用する者が現れるか……回収後は、必ず破棄してください。」
タラ・モルコー少牙士の言葉に、スウェスリク大牙将は頷いた。
もはや、過去の亡霊に縛られている場合ではない。
未来のために、この毒はこの世から消し去らねばならないのだから。
「英雄譚を書き記す日を楽しみにしています」
タラ・モルコー少牙士はそう言って、去っていった。
けれど、英雄とは何か。
罪を裁く者か、希望を示す者か──それすらも、簡単には答えが出ない。
ただ、ひとつ確かなことは、
「黒薔薇」が生み出した死の記憶は、決して風化するべきではないということだ。
クエスト「山狩の始まり」より