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- 東西百物語 第一回 -
✦壱話目 ヘイル✦
⋯⋯⋯⋯⋯⋯⋯⋯⋯⋯⋯⋯⋯⋯⋯⋯⋯⋯⋯⋯⋯⋯⋯⋯⋯⋯⋯⋯⋯⋯⋯⋯⋯⋯⋯⋯⋯⋯ 当記事は冒険者RPer向け百物語イベント【東西百物語 第一回】の語りログです。
創作要素が強い為、苦手な方はご注意下さい。《BGM:怪談会場BGM》では、僕から1つ怖い話をしようか。
その前に僕の自己紹介を。
僕の名前はヘイルというよ。よろしく。
皆こういうイベントに足を運ぶって事は、きっと少なからず怖い話が好きなんだろうね。
ふふ、僕もそう。
不思議な話ってドキドキして楽しいよね。
僕は森の集落出身なんだけれど、
この辺りだと故郷じゃなかなか聞けなかったような話が沢山聞けて楽しいよ。
今日僕が話すのも、僕が経験した話じゃなくて、他の人から聞いた話なんだ。
そうだな……。
せっかくだから、僕にも馴染みがある『ちょっとだけ森に纏わる話』を皆に披露しよう。
《BGM:運命の交わる街》さて、皆にも趣味の一つや二つくらいはあるんじゃないだろうか。
この体験をした人は絵を描くのが好きでね。
冒険者も顔負けの勢いで、あちこちに赴いては色んな絵を描いているような人なんだ。
なんでもその今は亡きお祖父さんも絵を描いていた人で、その影響を受けたんだって。
便宜上、この話の中では"絵描き"さんと呼ぼうか。
その日も、絵描きは絵を描きに少し遠出をしていた。
チョコボキャリッジの定期便を使って、街から離れた場所へと進んでいく。
たどり着いたのは……そう、森だ。
僕なんかは、森なんてぱっと見全部同じに見えちゃうんだけど、
見る人が見ると場所によって全然景色が違うんだって。
動物や植物、それに空気。
豊かな自然の中に個性があるらしい。
その森もとってもきれいだったみたい。
絵を描く人にとってはきっとこの上ない絶景の景色だっただろうね。
夢中になって森の景色を描いたんだって。
お祖父さんから譲り受けた、大事な筆を使ってね。
……趣味って楽しいけれど、夢中になりすぎると時間を忘れて没頭しちゃう事ってない?
この絵描きも例に倣って絵を描いて、描いて、描き続けて……
気付けばとっぷりと日が暮れていた。
我に返って、やばい!って思った時にはもう遅い。
森の深くまで入ってしまったから、
その日に出るキャリッジの時間はもう間に合いそうにない頃合いになってたんだ。
絵描きは焦ったよ。
昼ならまだしも、夜になれば森の中は危険がいっぱいだからね。
何が起こるか分からない暗い道に、暗くなって目を覚ました危険な生き物達。
一刻も早く安全な場所に行きたいけれど、徒歩で帰ろうにも一体どれくらいかかるだろうか。
どんどん暗くなっていく森を一人で進まなきゃいけない。
どうしたものかと悩んでいる間にも、刻一刻と月が高く登っていく。
―― そして。
突然、近くでガサリと草を踏みしめる音が聞こえた。
反射的に「わっ」と声を上げてそっちを見ると……。
そこに立っていたのは、人間だった。
至って普通の男性だ。
驚いた絵描きを見て、彼も同じように驚いた表情を向けていたそうだ。
暗い森で大声をだされたらそれはびっくりしちゃうよね。
男は絵描きに話しかけてきたそうだよ。
「すみません、驚かせてしまって。こんな時間に人影があったものですから」
「冒険者の方ではないですよね、どうされたんですか?この辺りは夜になると危ないですよ」
その口振りから察するに怪しい人でもなさそうで、絵描きはとても安堵した。
何故こんな場所にいるのかは分からないけれど、それはまあお互い様だしね。
「森で絵を描いていたんですが、帰るタイミングを逃してしまって」
「キャリッジの時間も過ぎてしまったし、帰る足が無いのでどうしようかと悩んでいたところです」
絵描きの言葉に男は納得したように頷いてから、持っていた画材をまじまじと見てくる。
そして男は「丁度良かった」と嬉しそうにした。
さて、”丁度良かった”とはどういう意味だろう。
出会い頭の挨拶でそんな言葉を返されたのは初めてだ。
そんな疑問が表情にも出てたんだろうね、男は絵描きを安心させるように笑った。
「僕の恋人の絵を描いて欲しくて…お恥ずかしながら彼女の絵が一枚も無くて、困っていたんです」
「一晩で描けるようなもので構いません、
絵の嗜みがあるのでしたら彼女を一筆描いては頂けないでしょうか?」
「お礼と言ってはなんですが、俺の家がこの近くにあるので宿の代わりに使って下さい」
「勿論、謝礼もお支払いします」
そんな男の申し出に断る理由もないよね。
困っている?どういう事だろう?って疑問に思ったけど、
そんな事よりも今日の宿を得られそうな事が重要だった。
人物画を描くのも好きだったし、絵描きは二つ返事で申し出を受ける事にしたんだ。
案内された家は、森の木々に隠れるように建てられたなかなかに立派な屋敷だった。
「立派なご自宅ですね」と思ったままに口にしたら、男は照れくさそうに笑う。
そして「恋人と二人暮らしだったので持て余しておりますよ」なんて言われたんだって。
家の中に足を踏み入れると少し埃っぽい空気が身にまとって床がギシリと軋む。
立派とはいえそれなりに老朽化はしているみたいだ。
そして男に案内されるがままに恋人がいると案内された部屋は、ひんやりとしていた。
《BGM:ヒグラシ》部屋の中央、確かに布団の上に女が横たわっている。
男は部屋に入るなり、
「ただいま、絵描きさんを連れてきたよ」
「君の絵を描いてくれるって」
「良かったね、良かったね」
と、女に声をかける。
でも、女は反応を示さない。
眠っているのだろうか?絵描きはそんな様子に疑問を抱いた。
でもそのまま棒立ちになっているのも失礼かなって思ったんだって。
絵描きも男に続くように「こんばんは、おじゃまします」と女に声をかけ、近づき……
途中で、ぴたりと足を止めてしまった。
気付いてしまったんだ。
―― 女は眠っているんじゃない。
息を、していないんだ。
思わず「えっ……」と声を漏らすと、男の顔がぐるりと絵描きへと向く。
「本当に困っていたんです」「貴方が来てくれてよかった」
有無を言わさないかのように、先程も言われた言葉を再び告げられた。
絵描きはそこで納得した。
――……ああ、遺影を描いて欲しいのか。
正直に一晩遺体と過ごしてその絵を描いてほしいなんて伝えられれば、快諾はしなかっただろう。
断っていた可能性すらある。
それを見越して男は、自分に詳細を伝えずに話を進めたのだろうと察してしまった。
状況を把握した途端に気が重くなる。
当然だよね、見知らぬ遺体と一晩一緒に過ごさなきゃいけないってことなんだから。
今すぐにでもこの話はなかった事に…って帰りたいところだけれど……。
外はすっかり月が高く登り、頼れるのはもう月明かりだけ。
断って今から森を彷徨うことになれば……と、先程も考えていた不安が再び押し寄せる。
自分の命がかかっているんだから、背に腹は代えられない。
結局絵描きは承諾したよ。
一枚絵を描けばいいだけなんだからって割り切ってね。
絵描きは遺体が横たわるその部屋で絵を描き始めたよ。
男は画材とキャンバスを広げ筆を走らせるその様子に
「わあ」とか「すごいなぁ」とか声を漏らしていた。
そんな声を聞きながら描き続けていると……。
”ドン!” ”バン!”
《BGM:聖堂の鐘》上の階からドタバタと何か大きな物音が聞こえてきて、絵描きは驚いて天井を見上げる。
まるで何かが暴れているような勢いだ。
二人暮らしと聞いていた筈だが、誰かいるのだろうか?
そんな絵描きの疑問を見透かしてか、
「ああ、ちょっと見てきます」と男は部屋を出ていってしまったんだ。
遺体と二人きりになってしまった事に少し背筋が薄ら寒くなる。
でも、それまでもずっと遺体を見ながら絵を描いていたしね。
変な話だけど、多少はこの状況にも慣れてきていた。
絵描きは気にしないようにしながら絵を描き進める事にしたんだ。
女を見つめ、黙々と絵を描く。
だんだんと完成に近づいていく。
短時間で描いたにしては良い出来ではないだろうか?
自画自賛に浸るその間も、上から聞こえる異音は鳴り続けていて、優越感を阻害された。
寧ろ激しくなっているような……?
大分経つのに男も戻ってこないし、だんだんと心配になってきて絵描きは一度筆を置いたんだ。
何か起きているのかもしれないから、様子を見にいってみようってね。
部屋を出て、階段を使って、2階へと上がる。
2階へ上がると、ふとドタバタという異音の他に誰かの声が聞こえる事に気付いた。
恐らく男女2人の声。
内容までは聞き取れないけれど口論をしているのか、その激しさは伝わってくる。
流石に心配になりその声が聞こえる扉に手をかける。
「大丈夫ですか?」
声を掛けながら開けた途端……
シンッ…と辺りが静まり返る。
あれ?と思うと同時に、音の他にももう1つ違和感があった。
開けた扉の部屋の中、すぐ目の前に遺体が寝かされている。
自分が途中まで描いた絵や、画材も散らばっている。
……自分は確かに2階の扉を開いたはずだが……?一体どういうことだろうか。
目の前の光景に困惑していると、また天井からドタバタと激しい音が聞こえ始める。
明らかにおかしい……でも慣れない家だし、遠出で多少は疲れもある。
開ける扉を間違えてしまったんだろう。
そう自分を納得させながら、絵描きはまた階段を登る。
やっぱり口論が聞こえてくる。
今度こそ間違いはない、よし!とノックをしてから扉を開けた。
…………。
やっぱり、音が静まる。
目の前は遺体が置かれた部屋だ。
そして、ふと遺体へ視線を落とすと…これはよくよく見てやっと気付いた事なんだけれど。
《BGM:鐘声》首に痣があったんだ。
絞められたような、そんな青い痣。
それが追い打ちとなって、だんだんこの状況への恐怖心がせり上がってくる。
一体どういうことなんだ!?そもそも男はどうして戻って来ないんだ!?
絵描きの思考を遮断するように、再び2階から音が聞こえ始める。
どんどん恐ろしさが込み上げて、絵描きは男を探して屋敷中を走り回り始めちゃったんだ。
「どこにいったんですか!?」
声を上げながら、何の部屋だか分からない扉を次々と開けた。
異音が聞こえる。
扉を開ける。
遺体がある。
口論が聞こえる。
扉を開ける。
遺体がある。
悲鳴が聞こえる。
扉を開ける。
遺体がある。
どの扉を開けても、どうしてもあの部屋に行き着いてしまう。
―― もうこんなところに居られない!
絵描きは慌てて荷物をまとめて、玄関へと走ったよ。
2階から聞こえる異音にも負けないくらいにバタバタと長い廊下を駆け抜ける。
見覚えのある玄関扉を勢い良く開け放つ……と。
目の前にミイラのように痩せ細った男の…いや、
最早性別も判断がつかないような顔が目の前に現れた。
『絵ヲ描いてクれるんじャなかっタんでスかァ?』そしてぬるりと棒みたいな腕を、絵描きの首に伸ばす。
「うわあああぁぁぁ!」
絵描きはもう恐怖心で耐えきれずに屋敷中に響き渡るような悲鳴を上げ……
―― バキリ。
そこから先の記憶はない。
《BGM:運命の交わる街》ふと、明るい日差しで目を覚ます。
気付けばそこは屋内ではなく、森の中だった。
森の中といっても麓の開けた場所だ。すぐ近くにキャリッジの停留所がある。
夢だったのだろうか……と、散らばっていた自分の荷物をかき集める。
すると。
―― その中に見覚えがないものがあった。
女の絵。
いや、女の絵だというだけなら覚えはある。昨晩描いた。
しかし描かれている内容は、自分の記憶の中のそれと大きく異なっていた。
その表情は眠りについているかのような穏やかなものではなく……酷く苦痛に歪んでいた。
大きく目を見開いてね。
何かを叫ぶみたいに口を開いて、思わず目をそらしてしまいたくなるような表情だったんだって。
―― その後。
自分の身に降り掛かった奇妙な出来事を話すと、間もなく森に調査が入った。
森の中には確かに屋敷があって、そして遺体があったみたい。
遺体は恐らく男女のものが2体。
"恐らく"というのはどういう事かっていうと、
その遺体は死後何年も経っているような状態で、すぐには性別や年齢の判別がつかなかったって……。
それと、調査に入った人から『貴方のものじゃないですか?』って折れた筆を受け取ったって。
その筆は……なんと、お祖父さんから譲り受けた筆だったんだ。
確かにその日から失くしちゃって、騒動で落としちゃったのかなって諦めてたみたい。
その折れた筆は屋敷の玄関先に落ちてたんだって。
『あの晩の出来事は一体何だったのでしょうか』
『何か起こったらと思うと恐ろしくて、今でも手元に残った絵を捨てる事ができずにいます』
『でもきっと…あの時何事もなく帰ってこれたのは、祖父の筆が自分を守ってくれたからだと思います』
そう、絵描きさんは話していたよ。
以上で、僕の話は終わり。
皆も森の中で誰かに声をかけられたらご用心を!
危ない事にならないように、ちゃんと帰りの時間も確認しなきゃだめだよ!
/em は、ふっ…とろうそくを吹き消した。