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【小説】セラフィタとクッキーの話

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8月25日(金)・26日(土) LT21:00~23:00
#ゆるいRPカフェ
ゼロムス鯖エンピ18区10番地 [cafe_Crimson Rose]
来店記念アイテムで、イベントオーナーの銘入りクッキーを配布予定。

その裏話的な短編小説です。


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   ◆ ◇ ◆ ◇ ◆

 セラフィタはカフェや酒場が好きだった。
 旅先の郷土料理を楽しみ、甘いデザートを頬張って、手帳にレシピを記している。
 料理そのものに興味があるというよりは、人が集まる空間の雰囲気に興味があるようだった。
 ふさふさの長い兎耳で文字通り『聞き耳』を立て、カフェで色とりどりのスイーツを囲んで笑い合う少女たちの会話や、冒険者が集う酒場でジョッキを片手に語る酔いどれたちの自慢話を、飽くことなく聞いていた。

 そんな彼が土地と家を購入して、せっせと家具を集め、なにやら店のような内装を作っている。
 カウンターを作り、椅子を並べ、観葉植物や花で飾っていた。
 試行錯誤しながら何度も失敗を繰り返し、クッキーを焼いている。

「俺な、カフェ開くのが夢だったんだ。甘いお菓子をいっぱい用意して、たくさん人を招いてお茶会がしてえなって……」

 セラフィタの家づくりを見守っていたアレックスは、言葉には出さないものの意外な夢だなと思っていた。
 喧嘩っぱやく荒っぽい性格で、あまり客商売が上手そうには見えない彼が。
 
「だってよお。手の込んだ菓子を作ったり、長い時間をかけて人と語らうってのは、『平和』なご時世じゃねえと出来ねえことだろ。戦場に居るときゃまるで想像もつかないそういう未来を、泥と灰にまみれながら俺はずっと憧れていたんだ」

   ◆ ◇ ◆ ◇ ◆

 『彼』は物心ついた頃から帝都ガレマルドで育った。
 青白い肌をした華奢な体躯のヴィナ・ヴィエラ族で、少女に見紛うほど中性的な容貌をしている。
 人生のうちで何度も名前が変わっており、その本名を知る者はあまりに少ない。
 市民権を持たない奴隷階級(アン)の身分で底辺の生活から抜け出すために志願兵となり、属州から徴兵されてきた様々な種族の戦友たちと同じ釜の飯を食らってきた。
 行軍中の戦用糧食は、保存性と栄養補給を優先した味気ないものが多い。
 しかし、帝都の子供たちからの差し入れとして、時折クッキーなどの菓子が配給されることがあった。
 ガレマール帝国に愛国心なんて持ってなかったし、鼻持ちならないガレアン人なんぞは大嫌いだったが。
 無垢な子供たちが手作りで焼いたクッキーの袋に、『へいたいさん。がんばってください』と拙い文字で手紙が添えられているのを見ると、思わず顔がほころんだものだ。
 彼は支給品のお菓子をすぐに食べてしまったが、戦友の中には大切にとっておいて後で食べる者もいた。
 志願兵でも奴隷階級や、属州から徴兵されてきた非ガレアン族は、決まって劣悪な環境に派遣される。
 戦火の最前線の真っただ中だったり、高温多湿で感染症が蔓延している地など。
 そんな中じゃあ当然のように仲間たちもどんどん死んでいく。
 人の命は紙きれよりも軽い。
 彼はこれまでも、そして今でさえも、『生きることは素晴らしい事だ』なんて綺麗ごとには反吐が出るタイプだった。
 この世は所詮、強いものが生き、弱いものから死んでいく。
 彼は他人に対して非情で冷酷で無慈悲な性格をしていた。
 自分以外は生きる価値のない虫けらのように見下している。
 平気で他人の命を奪ってきたし、助けを求める味方も見捨ててきた。
 頭の良い奴ほど命に意味を見出そうと哲学的に難しい事を考えるが、彼は単純だから生存本能のままに『今日』という時間を生き抜いていた。
 たとえ明日が来なくたっていい。世界が終わる瞬間まで、『今』を生きていることが重要なんだと。
 どんな劣勢な戦況でも不敵な笑みを浮かべる彼の姿は、戦友たちの目から見ても、黒い炎をその身に纏って生命エーテルを燃やしているような男だったと言う。

 あれはいつの頃だったろう?
 隊列はほとんど全滅に近く、兵站は断たれ、援軍も来ない。
 敵軍との交戦ではなく、糧秣の不足で味方は倒れていった。
 本来であれば撤退すべき状況だったが、ガレアン人の指揮官は「ここで昇進に値する功績をあげるまでは本国に帰れない」という濁った欲で引き際を見誤っていた。
 現地で調達したわずかな山菜や獣の肉もガレアン人の上官に奪われ、非ガレアン人の兵卒は餓死していく。
 空腹に耐えられず、土を掘り起こして木の根や地虫ですら食らう彼の姿を見た他の隊員たちは嘲笑した。
 「兎のくせに虫を食うのか?」「いくら腹が減ったって、あんなものを口にするなんて……見ているだけで気分が悪くなる」
 なんとでも言え……どうせ俺はこれまで奴隷として生きてきた。誇りも尊厳もあるもんか。ここより最低な地獄なら腐るほど見ている。
 そしてやはり食えないヤツから倒れていき、彼の真似をして昆虫や雑草を口にした者だけがなんとか生き残った。
 まともな拠点も築けず、暗くてジメジメとした洞穴の中で、敵兵から身を隠していた。
 劣悪な環境の中、体力も気力もとうに限界で、死が目前に迫っているのを感じる。
 もういいや……ここで倒れるならそれも運命だ。
 命に価値なんてない。生きる意味なんてない。
 そんな事はずっと解ってたんだ。やっと自分の番が来ただけだ。諦めてしまおう、なにもかも……。
 帰る故郷もない、家族もいない、愛した人もいない、人に愛されたこともない。
 俺の人生は、俺の命は、きっと誰より生きる理由がないゴミクズだ。

「……おい、クソガキ……こっちへ来い」

「ンだよ?まだくたばってなかったのか?クソジジイ……」

 座り込んでうなだれている彼の傍らで横たわっている老兵が、聞き取るのもやっとの掠れ声で呟いた。
 アラミゴから徴兵されたモンク僧で、彼に格闘術を鍛えた師のような存在だった。
 老兵は懐からクッキーの入った包みを取り出し、他の隊員に見つからないようそっと彼の華奢な手のひらに握らせた。
 とっくに湿気って、カビが生えかけている。

「おめえはそれ食って……生きろ」

 乾燥してひび割れた唇で呟くと、老兵は静かに息を引き取った。
 アラミゴから徴兵されたこの男は長年の兵役から解放され、この作戦が終わったら故郷へ帰れるはずだった。
 ラールガー星導教の僧侶でもあり、禁欲的で厳格な修行に打ち込んだ老兵の人生は、妻子を持つことはなかった。
 帝国軍に徴兵されてからは、新人指南として面倒見たこの若いヴィエラ族の青年に己のすべての技を伝授した。
 出来の悪い弟子ほど可愛いと言うが、悪態ばかりついて生意気な彼を、いつしか本当の孫のように愛していた。
 軍で配給される食糧が底を尽き始めると、自分の食べる分を減らして、若い弟子に少しでも食わせた。
 このクッキーは、最後に残した非常食だ。これがなくなればいよいよ本当に何もなくなる。

「馬鹿野郎め……こんなもんあったならてめえが食えよ。……クソジジイ」

 自分なら他人のために食料を譲るなんてことは絶対にしない。
 ましてや己が餓死寸前だという時に他人に「生きろ」なんて諭さない。
 形も不揃いで、ぼそぼそとした食感の手作りクッキーは、あまり美味とは言えなかった。
 溢れだした涙が頬を伝って、しょっぱい。
 それを嚙み砕き、惜しむように時間をかけて味わって、ようやく飲み下すと、消えかけていた生への執着が再び火を灯し燃え上がる。

「……嫌だ、嫌だ……死にたくない!俺はまだ生きていたいんだ……ッ!!」

 ここで倒れる運命というなら逆らってやる。死神だろうとぶちのめしてやる。
 なんとしてでも……たとえどんなことをしてでも絶対に生き延びてやると心に誓った。
 俺の人生は今まで何一つ良いことがなかった。
 誰かを愛してみたい、誰かに愛されたい。
 いつかきっと幸せになるまでは、このままこんな場所で野垂れ死んでたまるもんか。

 その晩、ガレアン人の上官が『不慮の事故』で殉職した。
 不可解な事故であったが、原因や理由について詳細に調査する人員も、もはやいないのだ。
 志願兵の中から最も体力が残っていた彼が指揮官代理として臨時着任し、疲弊した生き残りをまとめ上げ鼓舞し、なんとか帝都まで命からがら帰還したのだった。

   ◆ ◇ ◆ ◇ ◆

 セラフィタはアレックスと出会う以前の過去について語りたがらない。
 しかし意図せず過去視でそれらの記憶を視てしまう事がある。
 セラフィタにどのような生い立ちや秘密があろうと、アレックスは黙ってすべてを受け入れてくれる。
 皿の上に並べられたクッキーを一枚つまみ、かじると微笑んだ。

「上達したね、セラ。とっても美味しいよ」

「だろぉ?粉の分量とか焼き加減とか、いろいろ微調整して工夫してんだ。まあ、客に出せる程度の味にはなったかな?」

 料理の腕はアレックスの方が上で、普段の食事は彼が作っている。
 セラフィタは何をやっても大雑把なので、よく鍋を焦がしたり、材料の分量もめちゃくちゃだったりするのだが。
 菓子作りだけは丁寧にこだわりを持って作っていた。
 クッキーやフィナンシェなどの焼き菓子は、アレックスの好物だからと。

「カフェ、たくさんお客さん来るといいね」

「まあな。でも、エンピレアムは三都市からも遠いし、あんま期待はしてねえよ。人がぜんぜん来なくたって、それはそれで良いんだ」

「どうして?たくさんお菓子を用意して、人を招いてお茶会するのが夢だったんでしょ?」

「いっぱい人が来て賑わうのはきっと楽しいだろうなあ。でも、誰も来なくたって、おまえだけは俺の作った菓子を食ってくれるだろ?おまえとなら何時間いっしょに話してても話題が尽きることはねえだろうからなあ!」

「それじゃあ普段とぜんぜん変わらないじゃない」

 柔和に微笑むアレックスに対し、セラフィタは声を上げて明るく笑う。
 甘いお菓子はそれだけで美味いが、一緒に食べる大切な人がいてこそ、かけがえのない思い出や時間になるのだと。
 

   ■END■

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