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【小説】月影挿話 第10話 曠野戦線

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月影挿話 第10話「曠野戦線」



 ひょろろろと、高い空からとんびの鳴く声が降ってくる。
 さんざめく崖下の渓流の合唱にも負けぬそれを聴き、レキは青空を飛びゆく鳥の意思に思いを馳せた。
 気の利く水夫の用意した紅茶をひとくち。
 茶葉の香りを鼻腔で味わいながら天に目をやるも、瞳に飛び込んできたのは白雲に反射する陽の光ばかり。とんびの姿を捉えることはできなかった。
 ギラバニアの空は、あまりにも広い。
 荒れ野に据えられたティーテーブルにティーセット。船から遠路はるばる運ばされた水夫たちの苦労をよそにレキは紅茶を啜っている。ヤクの乳も持って来させたが、彼女はやはりいつも通りのストレートティーを好んだ。
 とんびが去り、川音に風音が加わる。まるで、サリャクの祝詞にオシュオンの琴が寄り添うように。
 この地はまさにアルデナードとイルサバードを繋ぎ、そして分かつ境い目にあたる。言うなればエオルゼアの片隅であった。神々に愛されし地の端っことなれば、十二神の恩寵は如何に在るのか。
 最近雇った航海長がレキにそっと耳打ちした。彼は目端が利く。
「……船長、始まったようです」
 遠く揺蕩う暗雲の方角から、空と大地を揺るがす連なった重低音。それは遠雷ではなく、筒音。
「うん」
 短く応じると、レキはカップをかちゃり。懐から取り出した包帯を掌に巻き始めた。
 船員たちは知っている。これが彼女の戦支度だと。
「野郎どもォ! 準備しろィ!」
 海賊くずれの操舵手が声を張り上げると、水夫たちはわらわらと得物を手に取った。かさばる大砲は諦めたが爆雷だってあり、準備は万端だ。今日は荒事に慣れた連中を連れてきている。
 レキはタルワールの柄を指先で撫でると、ふと独り言つ。
「……とんび、逃げたんだ」
 戦争が始まった。



 疾く駆け、曠野を踏みしめ、レキは跳んだ。
 細く長い尻尾がひょろりと舞う間に、片手で振りかぶったタルワールを大亀カローネへと振り下ろす。全身全霊の一撃だったが、相手は岩山のような甲羅に覆われている。刃が弾かれるもレキは気にせず、勢いそのままくるりと背を向けた。
 野生の猛獣とて、それが隙であることはわかっている。巨木のような前足を振り上げ、アウラ族の女の華奢な体を踏み潰さんとした。
 あわやの刹那――だが、レキは振り返ることもなく背を向けたまま、自らの脇の合間から刃を突き出し、大亀の腹を刺し貫く。
 氷雪も斯くやの鋭いひと刺しが猛るカローネの勢いを削ぐと、レキはその機を逃さなかった。
「ハッ!」
 短い呼気とともに振り返り、円月さながらの大振りで亀の眉間を斬りつけると、続けざま無造作に蹴っ飛ばす。剣技とも言い難い乱雑な戦法でレキはカローネを追い詰めた。
「ッ――!」
 とどめは大きな横薙ぎを一閃。
 亀の首筋がばさりと斬り裂かれ、血飛沫が空にぱっと咲いた。大亀の巨体は頽れ、返り血はレキの白い肌を染める。
 まるで、花弁の舞い散るように。
「次!」
 吠えるや否や、レキは次の獲物へと向かって駆け出した。
 どうやら、近くの水場から一斉に溢れてきたようだ。水棲綱の魔物が多く、何れも気が立っている。
 魔物どもにしても人間同士の戦争など迷惑この上ないことだろう。

 当代の覇王ヴァリス帝御自ら臨んだという、ガレマール帝国とエオルゼア都市軍事同盟の停戦交渉は完全に決裂。数刻前には国境ギムリト地方にて戦端が開かれた。
 地形とエーテルの作用によって昼夜を問わず暗雲立ち込めるこの地も、今や砲火によって赤々と照らされている。
 とはいえ、戦線正面の主兵はグランドカンパニーの精鋭が担っている。急遽、黒渦団混成艦隊に招集されたコズミキ・コニス号の面々は謂わば添え物であった。
 混成艦隊臨時陸戦隊連合分遣隊などという、わかるようなわからないような編成のもと、戦場の周囲に布陣させられた。
 負傷兵や敗残兵の収容や保護、あるいは敵遊撃隊の阻害などが本来の任務であったが、結局は魔物退治に明け暮れている。これが人里まで広がるようなことあらば、被害は戦火に次ぐものとなるだろう。
 だが、船員たちはわかっている。
 船長セリノフォス・レキには、そんな目的も大義もない。ただ、目の前の敵を斬ろうと決めただけなのだと。

 戦術も作戦も連携もなく、ひとり突出する船長を船員たちが見守っている。ときどきポンポンと援護射撃をする程度で給金がもらえるのだから、普段の激務と比べてこればかりは楽な仕事であった。
「あーあーあー、ウチのオカシラは今日も絶好調だァな」
 天気の話でもするように、操舵手が手庇の下の強面を破顔させた。
「あれで船長なのだから……困ったものだ」
「へッ! いいじゃねぇか、活きが良くってよォ」
 如才ない航海長が深い溜め息をつく。
 商船とは名ばかりの密輸船 “コズミキ・コニス号” だが、船長も操舵手も含めて約半数の乗員が元海賊なのであった。
 皇都イシュガルドの生まれという航海長からしたら度し難い連中に思えることだろう。
「これだから海賊は……」
 彼の溜め息が尽きる日はなかった。
「でも、あ、あの……?」
 申し訳なさそうに口を挟んだのは船医である。見るからに女学生のような若いヒューラン族だが、税関公社をクビになった元検査官だという。
「このままだと罠を仕掛けた意味、なくなっちゃいますよね?」
 彼らはこの陣に爆雷を仕掛けていた。撤退時に敵を一網打尽とするためであり、辺り一帯を爆砕できる威力があった。航海長が提案した遅滞戦術の一環である。
「そりゃまァ、オカシラもオレらも退かなきゃ発破なんざできねェからな」
 操舵手の言は当然のことであった。
 はてさて、そうこうするうちに、レキが甲殻に覆われたタラシナに噛みつかれていた。左腕に歯が食い込み、ぼたぼたと血を流している。
 だが、船長はそれを好機と受け止めたらしい。
 ぺろりと唇を舐めると、食いついたまま離れないタラシナの脳天目掛けて刀を突き刺す。さしもの猛る魔物も一撃で絶命した。
「次!」
 魔物の返り血と自身の流血に塗れながら、レキはさらに駆け出そうとしていた。もはや力の入らない左腕をだらりとさせながら。
「あ、ああ! 船長、待って! 待ってください!」
 傷ついた船長のもとへ船医は慌てて駆け寄った。一方で、空を見上げれば、ギラバニアの誇り高きトゥルーグリフィンまでもがギャアギャアと群れを成して飛び去ってゆく。
 戦況まではわからないが、戦火は確実に広がっていた。

「う、動かないでくださいね! 腕、取れちゃいますから!」
 船医の舌足らずな詠唱により、回復魔法フィジクがレキの傷を癒している。その間にもレキは視線を辺りへ巡らし、次の獲物を探していた。
「まだ?」
「まだです!」
 などとやっていると、ふとレキの視線が止まった。
 それはギラバニアの水辺に生息する水棲綱の魔物であり、アバドンと呼ばれている。神話に語られ、世の末に現れ破滅をもたらすという奈落の王がその名の由来である。
 なかなかにたいそうな名をつけられた魔物だが、その実、単なる、巨大な蟇蛙であった。紫色をした巨体は確かに異様ではあるが、蛙である。
「ひっ……!」
 レキの口から聞いたこともないような、それでいて切羽詰まった、声というには短い音が漏れた。船医にはその意味がわからない。
「あの、船長?」
 体が小刻みに震えている。回復魔法が正常に発動しているからには、怪我のせいではないだろう。だらだらと汗も流してる。顔は真っ青だ。
 その隙に化け蛙アバドンがのっしのっしずっしんずっしんと重々しい体を跳ね、レキと船医目掛けて迫り来る。動くに動けずただきゃあと悲鳴を上げる船医。斧を構えて駆け出す操舵手。短筒を抜く航海長。
 だが、誰よりも早く動いたのは、レキだった。

 ここでひとつ明確にしておこう。
 斬ると決めて斬りかかる相手を、レキは決して嫌ってはいない。彼女にとって斬るという行為と意思は、憎悪や悪意、あるいは害意ですらない。もっと、純粋かつ単純、根源的な “感情”とでも呼べばよいのだろうか?
 だからこそ、レキにとって蛙は斬る対象ではなかった。
 ただただ、レキは蛙が嫌いであった。
 ただただ、ぬめぬめしたものが生理的に嫌いであった。
 ただただ、それだけの理由で。
「ひぃ!!!!!!!!!!!」
 レキは爆雷の発破装置を押し込んだ。



 同盟軍と光の戦士たちの活躍により、ギムリト会戦はエオルゼア側の辛勝に終わった。帝国軍によるエオルゼア再侵攻を防ぐことには成功したものの、戦線は両軍睨み合いのまま膠着状態にもつれ込んでいる。
 グランドカンパニー黒渦団の戦闘詳報にも多大な被害が列挙されることとなったが、それはさておき、三行だけ主戦場から遠く離れた陣内での不可解な “事故” が記されていた。

 混成艦隊臨時陸戦隊連合分遣隊
 商船 “コズミキ・コニス号” 陸戦隊
 爆雷の誤作動により壊滅 重軽傷者十余名




つづく?

第10話というキリを記念(?)して今回はアンケート結果に従って、
バトル4、メロウ2、コミカル1、シリアス0にて創作しました!
投票ありがとうございました!

月影挿話 第10話「曠野戦線」 主演:月の影のレキ




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