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【RP】黒い森、救済の光 Ⅰ【ショートストーリー】

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黒い森、救済の光


I.



若いヒューラン族の男が、引きちぎられた片腕と両脚から血を撒き散らして倒れていた。獰猛なイクサル族の仕業だ。領地を侵した者がどうなるかの見せしめのつもりだろう。漆黒の鎧に身を包む男が蛮族に殺された冒険者を見たのは久しぶりのことだった。

とはいえ、ティノルカの森ではよくあることだ。

どれほど眠りについていたのかは分からない。氷漬けにされた時間は永遠のようにも感じられたが、覚えのある景色は停滞の試みがそう長くはもたなかったことを示していた。
人間ほどの体躯を持つダイアマイトどもは血の上に投げ捨てられた男の腕を喰い尽くし、カサカサと八足を動かしながら次の餌へ近寄って、肉のついた男の大腿に噛みついている。

漆黒の鎧の男は視線を前に戻し、進もうとする。

「頼む……助けて……くれ……」

息も絶え絶えの口から、弱弱しい言葉が吐かれる。漆黒の鎧の男は振り向きざま、鎧の背に癒着した大剣の柄に手をかけた。

手足をもがれファーブルのように転がっていても、男はまだ生きていた。イクサルの羽飾りがついた矢が腹の上に墓標のように突き刺されている。これを抜き傷をふさいだところで、もがれて食われた手足と流
れ出た血は取り戻せそうになかった。

「おねがいだ……死にたくない……」懇願する声は繰り返した。

漆黒の鎧に身を包む男は目を閉ざして考えた。

「もう助けようがない」しばらくして彼は口を開いた。「君を背負って歩いたところで、町へ着く前に君は死ぬ」

男は涙を浮かべながら、かろうじて残された右手を震わせながらゆっくり動かし、胸の上で細かな鎖に繋げられた真鍮のロケットを開いた。その中に飾られた家族らしき肖像画が見えた。
転がった男に近づくと、蜘蛛とも蠍ともつかない魔物どもは軋むような不快な泣き声をあげて威嚇し、爪が付いた前脚を揺らす。。ダイアマイトは知性など持たぬ虫けらだが、それ故に単純な食欲と生殖のための本能が、御馳走を奪おうとする外敵に剥き出しの敵意を向けていた。反りかえった長い尾の先の針から、全身を麻痺させる毒液を垂れ流している。

漆黒の鎧の男は一匹の頭を殴り潰すと、二匹目に弾丸に変えた闇の魔力を放った。マイトの群れは引き裂こうと飛び掛かるが、男は闇を纏った装甲で全てを弾き返す。他の冒険者が身に着ける鉄や革の装備とは異なる異界の守りは堅く、マイトどもの爪と尾は彼の肌に届くすら出来ない。さらに五匹を叩き潰すと、マイトの群れは森の木立へと逃げ隠れ、その隙間から一匹に十ずつはあろう赤い目を光らせた。

漆黒の鎧の男は、死にかけの男の傍に膝をついた。月光が照らす二本の角が伸びた兜から露出した口元に笑みはない。

「解放してやる。今日は死ぬには向かない日だが、やるなら今のうちがいい」

男はそう言うと自分の胸に手を当て、妖しく揺らめく闇を引きずり出した。揺らぎは次第に焦点が合うように形を持ち始め、やがて短い狩猟用の短剣のような闇の刃が鎧の男の手に握られた。獣の爪のようにくねった切っ先を、男の胸に突き立てる。

男は目を見開き、黒い鎧の腕を掴もうともがいた。ほとんど感覚のない手が、それでも分かるほどの信じられない冷たさに触れる。生きているかのように鼓動し、脈打つ鎧。凍える氷室の中に三日三晩籠っていたような冷たさに、男は自分の最期の瞬間を感じていた。

「身の丈にあった仕事を選ぶべきだと言われただろう」漆黒の男は問いかける。「残される者は、何より君の無事を願っていたはずだ。例え君が弱く、ろくに戦えもしなかったとしても、生きていてさえくれれば喜ぶ人がいたはずだ。なのに君は野蛮な獣人に不用意に挑んだ。わたしには理解しがたい」

彼は逆手に握った黒い柄に力を込めて、刃を心臓まで突き刺した。実体を持たない闇の牙に貫かれ、男はついに苦しみから解放された。開かれたまま胸から滑り落ちたロケットが、まだ乾かない血に濡れて赤く染まった。

漆黒の鎧の男が握りしめた手を離すと、闇の刃は無数の塵のように霧散して消えた。闇を扱う手の感覚を確かめるように二、三度指を開いて閉じるを繰り返し、大剣を背からむしり取る。

男は何度となく繰り返してきたように血だまりに剣をかざし、血を吸い上げる。その間、いつの日か浅い水面に落ちた滴の音すら反響する洞穴で交わした約束の言葉を唱え続ける。誰よりも愛し、そして憎まれた親友と交わした約束の言葉を。

「これで君の血が闇を呼ぶことはない」作業を終え、鎧を形成する生きた外殻に剣を包ませながら男は呟いた。

「ハッァ!また侵入者かッ!」背後から声がした。

男は振り返り、兜を形成する外殻を分解すると首元から鎧の中に融合させた。夜の闇のような黒色の肌、そしてぴんと尖った耳や鼻の凛々しい容貌が露になる。銀色の髪は後ろで一つにまとめられ、死と闇を見てきた紫色の瞳がイクサル族たちを見据えた。

九匹いる。人間のように立つ二足と、見せかけだけの小さな羽が付いた腕の先には獣らしく鋭利な鉤爪が伸びている。ハルバードや両刃斧、象徴的な紋様が施された曲刀を握り、隙間だらけの牙が覗く嘴をカチカチと鳴らしている。かつて森の精霊の怒りを買い大渓谷へ追い出されたイクサル族は、時を経てティノルカへ戻ろうとし、それ以来この森は人間と蛮族が縄張りを奪い合う混沌の只中にあるのだ。

不意を打たれたわけではない。まばらに草が茂った乾いた地面を踏み鳴らし、不快な呼吸音を漏らしながら接近してくる連中のことには前から気づいていた。

「そいつァ、オレたちの縄張りに侵入したらどうなるかッってのを教えてやるために作ったもンだッ!頭の悪い人間どもには分からねェかッァ!アァッ!?」先頭に立つイクサル族が言った。こんなに大声で叫んで喉が痛まないのだろうか。「オレたちが正々堂々とぶち殺して、二度とバカなテメェらが来ねぇように引き裂いてやったンだッァ!優しい忠告ッてやつだったんだぜェッ!」

「だったら何だ?」男は尋ねた。

イクサル族どもは笑った。

「テメェ、オレたちがナニモンか分かってねェようだなッ!」

「いいや。だが、君たちもわたしが誰か知らないだろう」

「アァンッ!?言ってみろッ!テメェの腹にブッ刺す剣に刻んでやらァ!」

「わたしの名はヴィルジール」そう言うと彼は、下ろしていた漆黒を纏う大剣をイクサル族に向けた。異界の闇に侵食され、ウルダハの錬金術師ですら知らぬ異質な生体によって作り変えられた剣だ。波打つ闇の波動を受けて、先頭のイクサル族の体が吹き飛ぶ。役立たずの羽が空に浮かんだ。

すかさず踏み出すと、今度はその歪に凹凸のついた刃で二匹目の肩から腰までを真っ二つに叩き切った。
それを見たイクサル族たちはダイアマイトのように北へ逃げ出したが、ヴィルジールは一匹、また一匹と始末していった。闇の刃が放たれ、振り下ろされる度に命が一つ消えた。瞬く間に、九匹のイクサル族は全てバラバラの死体になって転がった。

ヴィルジールは刃を鎧の背に癒着させると、体の芯に走る激痛に膝をついた。異界の闇の力を使う度に、それが体を蝕んでいく。真なる氷の中でも闇は凍り付かず、避けられない運命が確実に迫っていた。
彼は深く息を吐いた。死にかけの男に構うべきではないと分かっていたが、生来の善性がまだ残っているのだ。立ち上がり、為すべきことに集中する。

「必ず討たなくてはならない」ヴィルジールは呟いた。

急がなくては、「闇の魂の主」を倒す前に前に自分を失ってしまう。



ヴィルメアが身に着けた狼の毛皮の戦装束は蜂蜜と虫や植物の体液に塗れていた。彼女は口笛を吹き、両手で槍を振り回す。アルシェの東の渓谷で狼と共に駆け回った狩人が風のような速さで突く度、巨大な花の姿をした化け物の身は削がれ、組織が断たれていく。

化け物が勢いよく空気を吸い込むと、その流れに巻き込まれてヴィルメアの体は花弁の中に大きく開いた口の中に吸い込まれた。まとわりつく皮膜と粘着質な体内液に不満を漏らしながら、化け物の体内で暴れる。槍を突き刺してやると刺激に内壁が反応したが、吐き出してはくれなかった。

森の中の池で目を覚ましてから一ヵ月、そこから北に散歩して一週間。自然しかない森の岩肌に突き刺さった巨大な人工物がヴィルメアの興味を引いた。その周りでは重力に逆らってぷかぷかと岩が浮かんでいた。絶対何かあるっスね──彼女は上機嫌に鼻歌を歌いながら、岩から岩へ飛び移り異物を目指した。

魔法のカーテンを開けてしまったみたいに突然現れた開けた岩の上に、オレンジ色に輝く綺麗な結晶と岩を寄せ集めて人の形にしたみたいな化け物たちがいた。

「あれは敵っぽいっスね!」見つけるや否や槍を構えて飛び掛かり、瞬く間に岩の人形はただの岩になって転がった。

「う~ん、ちょっと微妙だったっスね」と言いながら槍をぶんぶん振り回して先に進んだところで、ちょうどよく地面から飛び出てきた大きな花の化け物を見つけ、ヴィルメアの青緑の猫のような目が輝いた。甘い匂いに誘われて人より大きな蜂まで集まりだすと、戦いへの本能に抗うことなど出来なかった。

ようやく化け物はヴィルメアを吐き出した。更にべとべとになった顔を少しマシな掌で拭うと、全力で舌を突き出して悪態をつく。人のジェスチャーを理解しない化け物は、長い触手のような蔓を鞭のようにしならせる。鋭い一撃を叩きつけられた岩はバラバラに砕けて飛び散った。

ヴィルメアは頷いた。「あれも新しい武器に出来そうっス」

蔓が地に触れる一瞬を狙って、腰のベルトのナイフを抜き取って投げつける。釘づけにされぴんと伸びた蔓を駆けのぼり、化け物の上を目指す。もう片方の蔓が横から迫った。

「ちょっとじっとしててほしいっス」

散歩中に拾ってからずっと腰の後ろに吊るしていた円盤型の武器を手に取り、蔓に向かって投げつけた。回転しながら飛ぶ刃に切り裂かれ根元から支えを失った蔓は勢いのままに遥か下まで落ちていく。

本体まで辿り着き、全然綺麗じゃない花弁を蹴って上空までジャンプする。最高点に到達すると、その高さに自分の身体能力の高さを再確認してにやりと笑った。槍先を下に向け、空を蹴る狩りの技術と重力を合わせて落下する。流星に貫かれ、化け物は体液を撒き散らしながらくたばった。

「最後の最後まできったねぇ奴」相棒の槍を撫でながら甘やかすような声で語り掛ける。「泉に咲いてた花の方が百倍綺麗だったッスね~」
渓谷に吹く清涼な風の匂いが恋しい。それから、泉に沈んでいったはずの女性も。ここの風は変な感じがする。知らない魔法の匂いの中に、よく知ってる夜の闇が少し混ざってる。

岩の端に立ち、ごつごつした岩肌を見下ろした。集落らしきものを挟んで緑や赤の葉を付けた木々の森が広がっている。闇の気配は森の方からだ。

集落に向かって飛び降りていると「おーい」と下の方から声がした。

声のする方を探すと、つるはしをもった山師の姿が見えた。

「そんなとこで何やってんだー。あぶないぞー」山師が叫ぶ。大陸の人間の言葉みたいだった。
ぴょんぴょんと飛び続けながら、彼らに伝わるように言葉を選んで叫び返す。「お花摘んでただけっスよー!」

叫ばなくていい距離まで来ると、山師は馴染みのないヴィルメアの汚れた衣装と顔を見て目を丸くさせた。「ひどい格好だな。冒険者か?すぐそこにフォールゴウドって村がある。宿もあるからはやいとこ寄って着替えたほうがいいぜ」

「ちょうどそこに行くとこだった。ありがとっス」笑顔を返して手を振る。早く体を綺麗にしたくて駆け出したが、少し進んでから立ち止まり、振り返って言った。「あー、えっと多分なんスけど、今日は早くお家に帰って大人しくしてた方がいいかもっス」

山師は風のように走り去っていく青い髪の後ろ姿を、不思議そうに見送っていた。


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