紅茶は苦かった。
でも不思議と身体がポカポカと温まり元気が溢れてきた。
紅茶の感想に素直に喜ぶその子の笑顔に惹かれ、オレは手を伸ばし、またその子の頭を撫でていた。
その笑顔はなぜかぎこちなく、自分のことを人形と言っていたことが妙にしっくりくる。
何か足りない…、
そう思えた。
そして、そのことが愛しく思えた。
と、その瞬間、フワッと頭の中に映像が浮かんだ。
「ベンチ…」
思わずまた声が出てしまった。
大きな窓の前に置かれたベンチの映像だった。
ベンチの足元は花畑…。
「ベンチならありますよ!」
その子はそう言って、少し楽しそうな様子で部屋の奥の扉へ向かって行った。
そして振り向いてまたオレに手招きをした瞬間、扉の向こうへ消えてしまった。
またオレは一人で扉の前に佇んでいた。
扉は開けるべきだと一択の答え。
その子の足りない物の答え。
自分にも足りない物…?
そうだ、自分にも何か足りないものがある。
なぜかその答えへの渇望とともに扉を開いていた。
扉の向こう側にその子はまたぎこちない笑顔で立っていた。
「ようこそ僕の部屋へ」と言いながらお辞儀をした。
その部屋には窓がなく、ベンチもなかった。
妙な配置の壁には光が複雑に当たり、明るさと暗さが入り混じっている。
部屋の奥にある天井まで伸びる本棚が印象的だった。
オレは呆気に取られ、ぼーっと部屋を見渡していた。
オレが「ベンチは…」と言いかけるまもなく
「ベンチはこの奥です」と言ってその子は本棚から一冊の本を取り出した。
何やら表紙に変な落書きがしてある古い本だった。
その本に取り出したペンからインクを垂らすと、本が息を吹き返したようにバタバタとページがめくれ、複雑な光る術式を描き出した。
カーバンクルを召喚した時のようなパンという音が辺りに鳴り響き、本棚が真ん中から割れ、扉のようにゆっくり開き始めた。
オレの心はその音とともに何かが始まる期待で満ち溢れようとしていた…が、しかし、そこは小さな部屋だった。
ただの小さな部屋。
確かに大きな窓の前にはベンチがあった。ベンチの下は小さな花畑だった。
あぁ…、頭に浮かんだ景色そのものだ。
でも自分はそれ以上のものを勝手に期待していたのだ。
その子はトコトコと歩いてちょこんとベンチに座り、また手招きをした。
中に入るとその小さな部屋にはガレマルド製の機械に似た水槽とベッドもあった。
オレは誘われるがままにそのベンチに座った。
ベンチに座ると本棚の扉は静かに閉じていった。
「じいちゃんはここに座って僕の頭を撫でながら、よく冒険の話をしてくれました。」
その子は何回も練習したセリフを言うように躊躇なく話し始めた。
「優しいじいちゃんだったんだな。じいちゃんのこと好きだったのか?」
オレがそう話しかけてもぎこちなくニコッと笑うだけで返事をしない。
「じいちゃんの記憶は僕のコアの中にあるので、昔話はアーカイブから引き出して閲覧が可能です。新しい記憶は、じいちゃんが僕の頭を撫でると同期出来る様になっていました。」
こんな話を聞くとやっぱりこの子は人形なんだと感じる。
「じいちゃんは、じいちゃんの記憶のクリスタルを保管するための自律型キロクバイタイとして僕を作ったと言っていました。人形なので名前はありませんでした。ずっとお前って呼ばれていました。」
「…」
「でもじいちゃんは人形の僕に『この話面白いだろ!』とか『ワクワクするだろ!』とか聞いて来るんです。僕はキロクバイタイなので感情を持っていませんでした。だから『面白いって何?ワクワクって何?』って聞いたんです。」
「…」
オレは話を遮らないように黙って聞いていた。
「じいちゃんはそんな質問をする僕を見て、『よしっ!オレがお前に感情ってやつを教えてやるっ!』って言って出て行きました。『この部屋から絶対に出るなよ!それからエーテル供給機に入るのを忘れるな!』と言い残して。」
「じいちゃんは帰って来たのか?」っと黙って聞いているだけではなんなので、オレはまた質問してみた。
今度の質問は流れに沿っていたらしく『はい!ちゃんと帰って来ました。』と答えてくれた。
「じいちゃんは感情の欠片をたくさん集めて帰って来たんです。
面白いの欠片、楽しいの欠片、ワクワクの欠片。
僕の頭を撫でなからその欠片を僕の中に流し込んで、僕は少しずつ感情を学んで行ったのです。」
「じいちゃんはアンタが感情を持ち始めて喜んだのかい?」
またぎこちない笑顔のみ…。
今度は流れに沿わない質問だったらしい。
「じいちゃんはまた他の感情の欠片を集めに旅に出てしまいました。僕はじいちゃんの言いつけ通りこの小さな部屋から一歩も出ずに、アーカイブからじいちゃんの記憶を引っ張り出しては面白いやワクワクを楽しみながら帰りを待っていました。歯がキラン☆となる事件屋さんの話が面白かった。」
「じいちゃんの記憶はワクワクして面白かったんだな?」とオレが言うと、
「はい!とっても!」と返してくれた。
よし!今度の質問は合っていた!
「でも、じいちゃんの記憶の中には鍵が掛かっているところがあって…、うまく読み取れない部分があるのです。例えば、双剣を持ったたくさんの人が何かを守るように丸くなって戦っていて、すごく攻撃されていて、バタバタその人たちが倒れて行って、その中心から小さな身体の人が現れて、傷だらけで…、じいちゃんがすごいスピードで近づいて手を伸ばしたところでプツンと止まってしまう…。こんな読み取れない記憶が幾つかあるのがわかりました。」
「…」
何かが自分の中で追い付かないでいた。オレはただ聞くだけだった。
「じいちゃんが帰って来ると僕は紅茶をいれてあげていたんです。いつも苦いって言って笑ってました。
じいちゃんは僕にたくさんの新しい感情の欠片をくれました。
嬉しいの欠片、ほのぼのの欠片、かわいいの欠片。じいちゃんからたくさんの感情をもらって、僕はじいちゃんの新しい冒険譚をワクワクドキドキしながら聞けるようになったんです。じいちゃんも僕のそんな姿が嬉しそうで『あとちょっとでお前も人間になれるな!』って言って笑っていました。僕は人間になれるの?!ってすごくワクワクしたんです!『ああ、じいちゃんがお前を人間にしてやる!』っ言ってくれたんです。」
「よかったな」っと微笑んだが、返事はぎこちない笑顔だった。
「それから足りない感情の欠片が悲しみや苦しみだけになった時、急にじいちゃんの欠片集めが止まってしまったんです。ずっと出かけてるのですが、戻って来ても感情の欠片を僕にくれなくなったのです…。僕は早く人間になりたいってせがんだのですが、じいちゃんは『あぁ…』って言うだけで全然くれなくて…。
そうしているうちに、じいちゃんは病気になってしまったみたいで、ベッドに寝たままになってしまいました。たくさんの人が心配して訪ねて来たみたいなのですが、僕はこの部屋から出てはいけないと言われていたので、じっとしていました。でもあの日の夜はじいちゃんが心配で…、じいちゃんの部屋に向かったんです。」
そう言ってからその子は黙ってしまった。
話は止まってしまった。
いくら待っても話の続きは始まらなかった。
頭を撫でた時にベンチが見えたことを思い出し、オレはその子の前に跪き頭へ手を伸ばした。
何かが見えることを期待して。
扉を開けるみたいに、そうすべきだと思ったんだ。
その子の頭に触れた瞬間、頭がクラッとした。
目に前にモヤがかかり、ねじ込まれるように意識が一点に流れて行った。
モヤがなくなり辺りが見えるようになると目の前にはベッドに横たわる老人がいた。
オレの目線はやけに低く、ベッドからかろうじて顔が出せるくらいだった。
「お前を人間にしてやれなくてごめんな…」老人がつぶやく。
首を横に大きく振るオレ。
いや、首を振っているのはオレじゃない。
「お前に苦しんだり、悲しんだりしてほしくなかった…」
今度は首を縦に振る。
老人はオレの頭を撫でながら、かすれた声で言った。
「ヒソカ…、お前のこと…、また最後まで守ってあげられない…」
“僕…、ヒソカ…、名前…、ヒソカ…” 身体の中で声がした
「ヒソカ…、さいごにお前と一緒にいられてよかった…、ずっと…、お前に会いたかった…、ありがとな…」
老人はオレの頭に手を置いたまま光の粒になって消えてしまった。
“僕は… じいちゃんと… 一緒に冒険がしたかった” 身体の中で声が響いた
胸の奥が痛かった。
悲しかった。
辛かった。
寂しかった。
また目の前にモヤがかかり、真っ暗になった。
目を開けるとオレはまだその子の前に跪いていた。
小さな部屋の大きな窓に溢れる光が眩しかった。
オレの右手はその子…、ヒソカの頭を撫でたままだった。
ヒソカはまたぎこちない笑顔でオレを見た、なぜか片方の瞳にだけいっぱい涙を溜めて。
そして片方の頬だけをつたう涙がベンチにこぼれた。
「そうか…、ちゃんと受け取ったんだな…、でもまだ何か足りないんだな…きっと」
オレはそう呟いてヒソカの頭を抱き寄せていた。
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第2話はこんな感じです( ̄▽ ̄;)
また長くなってしまった…
このお話は完全にオリジナルと胸を張って言えるものではなくて、僕が好きな物語から少しずつお借りして書いています。
もちろんFF14の世界をベースに勝手に物語を書いてます!ゴメンナサイ!
このお話はピノキオに影響されています。
子供の頃からずっと疑問でした。
なぜ、ゼペット爺さんはピノキオを作ったのか?
そして、なぜ人間の子供になって欲しかったのか…?
ヒトである苦しみを知っているはずなのに…。
なんてことを思いながら書いてみたお話です(^∇^)
また続きが書けたら出します! ではっ!
一応、第1話はこちらですぅ〜
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あーー!ハウジングはまだ途中です( ̄▽ ̄;)
ヒソカでした〜♪