フレンドがほしい 僕の名前はルークス(Lux Xiv)。
年末におよそ四年ぶりに冒険者稼業を再開した元復帰者(リターナー)。
物語を蒼天のイシュガルドの終盤まで進めた現在は、頭上の花は枯れて初心者(ビギナー)に戻ってる。
そしてぼっちだ 年の瀬に立てた計画では確かこうなっているはずだった。
今月に入る頃までには漆黒のヴィランズに突入していて、11月の半ばまでにクリア。新たな冒険に備える。
もちろんフレンド様がいて、FCにだって所属している……はずだった。
でも現実は甘くない。
エオルゼアに降りたった頃も、復帰当初もそのうち仲間ができるはず……って考えていた。
自分から何かアクションを起こさなくても、きっと誰かが声をかけてくれるって。
『たまたまダンジョンで一緒になった人とフレンドになりました!』
『声をかけていただいたFCに所属することになりました!』
何も珍しいことじゃない。よく聞くフレーズだ。
僕の《番》はまだだろうか。
いつ声をかけてもらえるんだろう。
僕はダンジョンに通いながら声をかけてもらえるのをじっと待った。アサインされる前の宇宙飛行士の気分だ。そう思えばこの境遇だって悪くない。
最初からかっこいいパーティに入れてもらっているよりも、《最初は》苦労している方が物語の主人公っぽいじゃないか。
僕にはまだそんなふうに考えられる余裕があった。
一月が経った。二月が経った。
何かがおかしい。誰からも何の声もかからない。
みんなには自分が見えていないんじゃないか、そんな気がしてくる。透明人間になった気分だ。
「よろしくお願いします」
『よろしくお願いします!』
「ありがとうございました。お世話になりました」
『お疲れさまでした。ありがとう』
ダンジョンでの挨拶が【マクロ】で返ってこないことに一喜一憂する。そんな日々。
僕は、このままだとまずい、と思った。
このままでも、いつかフレンドはできる……かもしれない。でもそのいつかが、いつになるのかがわからない。10年後とかでは困る。
(何かアクションを起こさないと)
それでも本気になれば、フレンドができる――と僕はまだ考えていた。周りを見れば、みんなフレンドとの楽しい日々を謳歌している。何かのランキングで上位になりたいとか、大所帯のFCのマスターになりたいとか、そういう絵に描いたお餅のような話じゃなくて、実現可能な目標を立てたつもりだった。
(目標は立てたけど、どうやって達成するかを考えていなかったな……)
そんなわけで本気でフレンドをゲットする為の作戦を考えた。
作戦は二つ思いついた。
一つ目は、人が多い休日のリムサ・ロミンサで、『フレンドがほしい』とシャウトする。
題して、『いきなり背水の陣で挑む決死のフレンド募集――失敗すれば、さよならエオルゼア作戦』
必要なものは、勇気とアルコール。
二つ目は、イシュガルドのエーテライト前で所在なさげに立ち尽くす。
題して、『果報は寝て待て、釣り針の先に孤独をぶら下げて――類は友を呼ぶ作戦』
必要な条件は、自分がぼっちであること。
僕は二つ目を選んだ。一つ目を選ぶ勇気がなかった。フレンドがほしいと口にして、それが叶わなかった時のことを考えると、どうしても実行できなかった。心の中で思い浮かべるだけの言葉は、無力だってわかっているはずなのに。
でも、二つ目の作戦にだって、ちゃんと上手くいく根拠があった。
狙うターゲット(=僕の未来のフレンド)は以下の条件が当てはまる人物に絞った。
①蒼天のイシュガルドのメインストーリーを楽しみに、新生エオルゼアではとにかくストーリー進行を優先してきた新米冒険者さん(フレンドなし)。
②あまり戦闘が得意ではなく、この先も一人でダンジョンに行くのかと思うと気が重い。
③フレンドはほしいけど……どうしたらできるのかわからない。
つまり、僕のような人。 似たような境遇の人なら気だって合うはずだ。類は友を呼ぶんだから。
同族嫌悪? そんなの知らない。 頭の中でシミュレーションしてみても、いい結果が出そうだった。根気はいるかもしれないけど、アルコールを燃料にいきなりフルスロットルで発進する『さよならエオルゼア作戦』よりも安心安全な作戦だ。それにこっちなら上手くいけば、気の合うフレンドができるかもしれない。
思い描く流れはこうだ。
あなたは新米冒険者。
新生エオルゼアの頃は、『少しお使いクエストが多いな』と思いながらも駆け抜け、そろそろフレンドが欲しいと思い始めている。
目の前には、そんなあなたと同じように、イシュガルドのエーテライトの前で一人佇む冒険者の姿がある。
声をかけてみますか?
▶はい
いいえ
『すみません! 自分、ついさっきイシュガルド編に突入したんですけど、フレンドがいないんです! よかったらフレンドになってくれないですか?』
とあなたは言った。
「そうなんですか! 実は僕もフレンドいなくて……イシュガルドのメインもほとんど進められていないので、よかったら一緒に進めませんか?」
とその冒険者は必死な様子で返事をした。
その冒険者はそわそわと挙動不審な動きをしている。よく見るとなんだか頼りなさそうだ。
本当に仲間にしますか?
はい
▶いいえ
「ちょっと待ってください。よかったら、これほんの気持ちです」
その冒険者は100万ギルを渡そうとしてきた。
受け取りますか?
はい
▶いいえ
「に、荷物が重いでしょう? よかったらお持ちします。とりあえずお試しでフレンドになりませんか……?」
その冒険者はあなたの足元にすがりついてきた。
どうしますか?
蹴とばす
▶面倒なのでフレンドにする
「ありがとうございます。偉大な光の戦士様。僕はルークスです。よろしくお願いします」
なんか違う。 確かにフレンドはできたけど、なんか違う。
(でも、まあいいや、声さえかけてもらえれば……)
雨の日も、雪の日も、曇の日も、吹雪の日も、雪の日も雪の日も……僕はまだ見ぬフレンドを待ち続けた。
けれど一向に現れない。何かがおかしいのではなく、自分がおかしいんじゃないか……。日に日に自信がなくなっていく。
それでも(良いか悪いかは別として)物事は放っておいても進むときは進む。止まない雨はないし、明けない夜もない。
忘れもしない。《その日》はやってきた。
その日も、レベリングダンジョンに行くためのシャキ待ちをしている間、エーテライトの前で僕は突っ立っていた。内心、この作戦は失敗かもな……なんて思いながら。
すると唐突に、僕のすぐそばで、眼鏡をかけたエレゼンの青年が立ち止まった。
もの凄い見てくる。 しかもどこかに行こうとしてはやめて、また戻ってきては僕のことを見ているのだ。それを何回か繰り返している。
(ひょっとして僕に声をかけようとしているのか……?)
エレゼンの彼の頭の上には若葉マーク。ガーロンド装備、杖を持ってる。……たぶんDPS、キャスター。絵に描いたような、今まさにイシュガルドに来ましたという出で立ちだ。
(嗚呼……ホントにホントかもしれない。ついにフレンドができるかもしれない)
内心この作戦には穴があると考え始めていたから、いよいよ成功するという時分になっても僕はフワフワと夢見心地だった。
この作戦の穴。それはターゲットが僕と似た人なら、結局誰かに声なんてかけられないということ。
でも、彼と僕は違った。彼には勇気があった。僕にはないもの。
でも……もしも彼がフレンドになってくれるなら、僕は変わるよ。彼に相応しい、勇気を持った冒険者になってみせる。
……いや違う。 今だ。 今変わろう。何かが起こるのを待っているだけの自分に別れを告げよう。
何か探してたりしますか?
探し物は何ですか? それはフレンドですか? それなら丁度よかった。僕も探していたところです。
僕の方が先に待っていたのだから、僕が声をかけるべきなんだ。そうかこうやってフレンドはできるのか。
僕は決意と共に――
――その時、タッタッとその子は小走りでやってきた。彼はエモートで《その子》を【歓迎した】。歓迎されたのは僕と同じアウラだった。見た目と名前が僕によく似ていた。そのまま二人は軽快な足取りでいずこかへと駆けていった。
瞬く間の出来事だった。
後にはエーテライトの前でポツンと独り、まだ見ぬフレンドを待つアウラの姿があるのみ。
僕の心は砕け散って星になった。
レベリングダンジョンに行くのをそっとやめた。
(馬鹿馬鹿しい……)
僕は、何が作戦だ、と自分の子供っぽさを恥じた。
数日の間、僕は完全にやる気を失った。ダンジョンに行く意味がわからない。楽しくないし、レベルだけ上がってどうするんだろう。こんなのちっとも面白くない。
本でも読もう。何を読もうかな――
そんな折、僕は見つけてしまった。
このロドストを。 厳密に言えば、ロドスト自体は年末に知ったのだけど、その頃はここが何なのかなんて理解していなかった。この日記を見ている方には説明不要だと思うけれど、ようするにここは、エオルゼアと冒険者の軌跡が記された、もう一つのエオルゼア(?)……みたいなものだ。
そして、ここをフレンドを作るのに使っている人も多いと言うではないか。
(よかった……いろいろあったようでなんにもなかったけど……やっと辿り着いた……)
日記を書けばフレンドができる ……僕はその文言を完全に信じ切った。
人は見たいように見、聞きたいように聞き、信じたいように信じる。
半年ぶりに日記を書いた。朝起きると、閲覧数は二十だった。ハートマークが一つ、ついていた。
(誰かに見てもらった……。しかも誰かがいいねって言ってくれた)
何の反応もなかったあの日々が嘘みたいだ。
(これだ……あの言葉は間違ってなかった)
勢いに任せて、僕は次々に日記を書いた。
そしてコメントをもらった。
恥ずかしながら、エオルゼアで人と本当の意味で言葉を交わすのはそれが初めてのことだった。
僕はもうロドストの虜になっていた。漆黒のヴィランズのことも、
フレンドを作ることも頭から消えていた。
もっとコメントが欲しい……もっと見てほしい……もっと面白いって言われたい……。
僕の心理状態は、まるでリフィーディング症候群になってしまったかのよう。飢えている人間に突然多量の栄養を投与するとおかしくなってしまう。
僕はブレーキの利かなくなった機関車みたいに暴走し始めた。
日記はどんどん長くなっていった。当然、冒険はそっちのけで日記を書くものだから、内容は薄くなっていった。おまけにずっと同じところにいて、基本、登場人物は自分一人だ……面白い、わけがない。
素敵な仲間が欲しい……。素敵な仲間に囲まれた日記が書きたい……。そしたら僕を見てもらえる。その為にはフレンドが《必要》だ。
いつしか僕の目的はすり替わっていた。どこかで間違ったレールに乗ってしまった。
人生は選択の連続だ。でも選んだときには正解か不正解かなんてわからないことも多い。あとから振り返ったときに、嗚呼、あのときこうしてれば……なんて思うものだ。やり直せたらいいのになって。
フレンドがほしい。話が合わなくても構わない。気なんて合わなくていい。ただ日記に登場させるキャラクターとして、形だけの仲間がほしい。僕を飾る為の装飾みたいな仲間がほしい。
僕はダークサイドに堕ちた。考えていることは完全に悪役のそれだった。
その為には、愚痴を言うのをやめないと、明るくて楽しい話を書かないと……長々と自分語りをするのをやめないと……SSを載せないと……短く読みやすくまとまった文章が書けるようにならないと……。
書いて、消して、書いて、消して……。
フレンドを作るにはもっと交友関係を増やさないと……その為には、もっといろんな人の日記を見ないと……いいねしないと……コメントしないと。
日記をたくさん読んでいると、自然と自分にも思うところが出てきた。
コメントを書き込もうとして――僕は手を止めた。
でも、自分なんかがコメントしていいのだろうか。『おかしなヤツが湧いた』……そんなふうに書いている人に迷惑がかかるんじゃ……。
(あれ……? これって、ひょっとして、詰んでるんじゃないか……)
そんなはずない、と僕は自分の日記を読み返した。みんなに共感してもらえるような話を懸命に書いた……つもりだった。
でも、現実のそれは、長くて読みづらくてつまらなかった。
それは独りよがりな僕そのものだった。
どうして日記で誰かとの交流を図ろうとしていたのだろう。他にいくらでも方法なんてあるはずなのに。
僕は我に返ってしまった。
どうにかフレンドを作ろうと頑張る冒険者、そんなルークスから――
――熱しやすく冷めやすい、少し上手くいかないと自分は世界で一番不幸だって顔をして、何もかも放り投げてしまう、そんな元の自分に。
――そうだ。いっそ、最初からやり直そう。どうせフレンドもいないし、失うものは何もない。リセットボタンはどこだっけ?
最初は冗談のつもりだった。軽い気持ちでちょっと自暴自棄になってみた《フリ》をしただけ。
でも、一度その考えに辿り着くと、不思議なことに気持ちがスッと楽になってしまった。
長い夜が明けていく。
やり直しが利くのはいいことだよ。そう自分に言い聞かせた。
僕は冒険を途中でやめることにした。
生まれ変わったら、もっと明るく振る舞おう。いろんな人に声をかけて、恐がらずにフレンドになりましょう! って言ってみよう。一緒に冒険して、楽しくSSを撮ろう。グループポーズの練習もしたし。次はきっと上手くいく。
さあ、新しい自分になって冒険をはじめよう。 ルークス・エクシヴとしての冒険を終わりにしますか?
▶はい
いいえ
ごめんね。ルークス。君は僕が作った初めてのMMOのキャラクターだったから、ハッピーエンドにしてあげたかったけど、僕にはその力がなかった。操作が下手で、よく床に寝ころばせて、ごめんなさい。コミュニケーション能力がなくて、ひとりぼっちにさせて、ごめんなさい。せっかくエオルゼアに生まれたのに、楽しい思いをさせてあげられなくて、ごめんなさい。
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