──バカな、あの労働後から抜け出してきたのか。サウナなんてやったら死んでもおかしくなかった筈だ。
──逆だよ。このままじゃ死んでも死に切れないから、這いずってサウナにきたのだ!
漆黒のヴィランズ、サウナ狂い編(妄想)
突然だが、地球で一番暑い空間はどこであろうか。
湿気せめぐ熱帯雨林?広大であらゆる緑の繁殖を拒む砂漠か?
──否、「サウナ」である。
サウナは湿気と乾燥、その両方からなる暑さを絶妙に保たれた、人工的な「死」の空間なのだ。
その中ではあらゆる生命は繁殖できず、生活もままならない。
そんな死の空間を好んでやまない人たちがいる。所謂「サウナー」と呼ばれる物好き達だ。
光の戦士であり「サウナー」である僕は、エオルゼアと仕事とサウナを行き来する日々を過ごしている。
さて、労働を終えて凝った身体をほぐすべく近所のスーパー銭湯へ。
サウナハットと呼ばれる装備品を持ちサウナへ。サウナハットは断熱性の素材で作られており、髪と頭皮をサウナの熱から守ってくれる。なにより頭部を熱から守ってくれるので、クラクラする事もない。零式に食事と薬を持ち込む事が当然のように、僕はサウナハットをいつも持参している。
さっそくサウナの中へ。ちなみにサウナーはサウナに入ることを「ライドオン」と呼ぶ。ライドオンして中を見ると、上段が空いているではないか。これは運が良い。どれくらい運がいいかと言うと、零式消化でフリロルールの中、ニードで箱二つを90以上の数値を出すくらいついている。
早速上段に座り込んで一息つく。今日も頭を悩ませる事案が様々だった。うんざりさせられる出来事も多く精神的な疲弊も隠せない。
ああそういえば消化もまだだ。相変わらずカヘキシーは苦手だし、ダークドーム着弾後の範囲も当たる事が多い。
悩みは何も仕事だけではない。楽しみの中にも存在するのだ。
DPSを上げるにはどうしたらいいだろうか。フレンドと遊べるだろうか。足を引っ張ってないだろうか。
良いことも悪いことも、静かな空間では考えてしまうものだ。ここで、何故自分がサウナを好きなのか少し語ろうと思う。
サウナは思考を「除去」できるのだ。上記のように無駄な考え事は脳のリソースを奪う原因にもなる。そのような無駄を熱のストレスによって強制的に排除し、考え事が出来ないようになってくる。いや、「暑い、苦しい、早く出たい」という思考にしか至らなくなるのだ。
友人らにサウナの良さを語ると「マゾ……?」と言われがちだが否定はできないかもしれない。
なぜならこの苦しみから解放された後の気持ちよさがサウナ(温冷交代浴)の本題なのだから。
そうして12分計(サウナ内で時間を見るための時計)が8割回ると、思考は完全に停止。熱に対するストレスで生命の危機を感じ取り、「早く出なければ」という一つの考えだけになる。
──限界だ。
外に出ると外気の風が気持ちいい。汗をよく流して水たまりという名の水風呂に身体を沈める。
熱された身体が一気に冷やされる感覚は何事にも変え難い快楽であり、サウナが好きという人間の大半がこの水風呂の虜になっている事に気がついていない。
若者の中ではまだ長いサウナ歴を持つ自分でさえ、気付いたのは最近のことなのだ。
え?身体に悪くないかって?
負担がかかってないかって?
かかってる、かかっているのだ。
かつてないほどの負担。熱によって広げられた血管が冷によって一気に引き締められる。
呼吸が荒ぎ、上下する身体が何より負担を感じている証拠と言えるだろう。
しかし勘違いしてはいけない。サウナを楽しむ、という行為はこれからが本番である。
水分補給を充分にして、ベンチに座り込む。
するとどうだろう、頭の中がじわじわと湧き上がる何かに震えてくるのだ。
世間一般で言われている「ととのい」とは、この先の先にあるものであり、まだまだととのいとは程遠いがこの状態でも充分に気持ちがいい。
快楽を感じる物質名は割愛するが、あきらかにそれらが脳内を駆け巡る洪水を起こしている。アム・アレーンの光の氾濫に逃げ惑う人々を脳細胞だと例えると、もうめちゃくちゃにその氾濫に飲み込まれてほしい。
頭がふわふわしたり、異様な眠気に苛まれたり。その日感じるバフはその日の体調次第なのだ。今日は頭がふわふわし、言葉に尽くしがたい快感を味わえている。これがサウナ、これが温冷交代浴だ。
こうして思考を一度切り、感覚の世界に潜る魅力にすっかり取り憑かれてはや10年。
仕事もFFXIVも悩みは尽きないが、どれも取り組みがいのあるものばかりだ。
そうして、上記のルーティーンを3回繰り返すと「ととのえるか」どうかの瀬戸際に立つ事ができる。
ととのうコツなどない。全て運次第だ。
最後の水風呂を終えて今度は椅子の上で横になる。
すると、最初に味わった浮遊感より強い物を感じられる。
視界は揺れてエンドルフィンの波が脳を支配する。思考から感覚へ完全に切り替わった時………
と と の っ た ぁ 〜
………そう、その時こそととのえるのだ。