カストルム・オリエンスの入り口に女性がひとり、双蛇党の兵士に捕まっていた。
正確には保護されていた。曰く、死んだ兄の弔いにラールガーズリーチまで行くのだという。
一般の女性一人で歩くには危ない旅路を俺が護衛するコトになった。
道すがら、女性はギラバニアにあるものを通して兄について問いかけ、語った。
カステッルム・ベロジナ。本来ここは単にベロジナ大橋と呼ばれていた。
アラミゴの入り口とも言える場所に帝国の黒々とした基地が立てられ、呼び名も帝国風に変えられる。
そうして少しづつアラミゴ人の心を変えていくのが帝国のやり方なんだと兄は言っていたそうだ。
ヒトは馴染み深いものを疑えない。一度信じた常識を普通だと考える。
疑ったとしても、慣れ親しんできたものを捨て去るのには時間がかかる。不安もある。
愛着がなくても惰性というものがある。ヒトは本質的に怠惰だと俺は思う。
カステッルム・ベロジナを横目にパイクフォールズを抜けて、北の迷悟橋へ。
女性は流れ落ちる滝を見つめていた。正直さっさとラールガーズリーチまで行きたいが、
俺は冒険者、それも体力に自信のあるアウラ・ゼラで、この女性は一般人だ。休憩が要る。
――兄について考える時間も要る。ああ、面倒だが聞いてやろう。仕事のうちだ。
悲しげな女性 : 私と兄は、帝国の支配から逃れるため、
グリダニアに移住した、アラミゴ人です。
悲しげな女性 : ギラバニアで暮らしたのは、
幼い頃のわずかな期間でしたから、未練はありません。
あの村も、逃げる際に一度だけ立ち寄っただけで……。
悲しげな女性 : ですが、兄はアラミゴ解放軍の噂を聞くと、
すぐに入隊を決めて、家を出てしまいました。
悲しげな女性 : 祖国って、いったい何なのですか?
生まれた国? それとも、育った国?生まれた国じゃないの。俺はアハルメス岩窟(*1)っつーとこの出身だけど。
ただ今ここで、この女に必要な言葉はそれじゃないな。
Click to showClick to hide
「どっちも祖国でしょ」
悲しげな女性 : ……そう言われたのは、初めてです。
あなたのような考え方をする人も、いるんですね。
悲しげな女性 : 正解なんて、人それぞれなのかもしれませんね。
兄妹である私たちですら、感じ方も、その想いも違ったんですから。当たり前じゃねえか。めんどくせえなあ。まあ、どうでもいいんだがね。
スキズム開山堂はモンクに縁のある建物だったな。兄もモンクだったのかな。
ラールガー星導教の寺院、ね。そういやそうだった。
悲しげな女性 : ここは……何度か両親に連れてこられたことがあるので、
少しだけ覚えています。
悲しげな女性 : 兄は戦いのあと、この場所でひとり祈ることで心を落ち着け、
自分自身を見つめ直していたと、手紙に書いてありました。
きっと、大事な場所だったんでしょう。そうだね。
悲しげな女性 : あなたにも、心が落ち着く場所はありますか?「――あるな」
悲しげな女性 : それは、あなたの帰るべき場所ですか?
それとも、帰りを待ってくれている人がいる場所?
悲しげな女性 : ……すみません、変な質問をしてしまって。女性が続けて口を開いたので、俺はただ聞いた。
この女は肯定が欲しかっただけだ。自分の思いと立場を認めてほしいんだ。
誰でもいいから、自分だけでは答えられないし決心も出来ないから。
女ってのは答えが決まってる話をするっていうしね。偏見かもだが。
女は最後に、ラールガーズリーチで兄の墓の前に立った。
ああ。このナックルが置かれた場所がそうだったのか。
モンク……を目指した、憧れた、拳闘士だったんだろうなァ……。
悲しげな女性 : ここが兄の眠る、お墓のようです……。
死亡通知が届けられた後、ここに来ることを決心するまでに、
ずいぶん長い時間が経ってしまいました。
悲しげな女性 : 兄の死を受け入れる心の準備は、できていたつもりでしたが、
今はただ、悲しくて……。
悲しげな女性 : 私にとって、アラミゴは過去の場所です。
移住した後、私は結婚して、男の子も生まれました。
今までも、これからも……私が生きる場所はグリダニアなんです。
悲しげな女性 : 私と兄では、何が違ったんでしょうか。
祖国への想いでしょうか?
でも私にとって、祖国はここではなかった……。
悲しげな女性 : 私はもう少しだけ、兄が命を捧げた、
このアラミゴの地を、歩いて回ってみたいと思います。
冒険者さん、ありがとうございました。知らん。『ギラバニアで過ごしたのは幼い頃の僅かな間で未練はない』
それが全てじゃないのか。兄との年齢の差がどれだけ開けているか――あぁ。
少なくとも兄も、幼い頃の僅かな間しかギラバニアにいなかったのか。
アンタの家族は、今の家族は、グリダニアで生きてる。
兄の家族は、両親は、ギラバニアで生きてた。きっと妹のコトだってそう思った。
男の子ってのはなぁ、女の子よりゴツゴツして少しは腕っぷしが強いもんだ。
みんながそうじゃねえケド、基本的には戦士として生まれてくるんだ。
そしてな。バカなんだ。1度覚えたものをずっとそのままだと思う。
俺はそうだ。だからな。たぶんな。アンタの兄ちゃんにはな。
ギラバニアで過ごした家族がずっと残っていたんだと思う。ギラバニアを取り戻せなくても、妹を守りたかったんだと思う。
妹が暮らしているのがギラバニアだから。お兄ちゃんにとってはそうだった。
アラミゴのあとはグリダニアが侵略されるだろうってのは明らかだ。
無意識に妹を守ろうとしたらアラミゴの開放が最善になるんだ。
――俺の帰る場所は。たくさんある。
リムサ・ロミンサを眺められる崖。サマーフォード庄からアジェレス川沿いに西へ。
枝分かれする道と、点々と存在するオレンジ畑、それから広い広い空。
エオルゼア大陸についたばかりの頃を思い出す風景。
クルザス、リバーズミート。ファルコンネストの北を呆然と、白い息を吐いて歩く。
広い。寒い。遠い。何が見えるかわからない。ワクワクするよりは疲れた。
ネガティブな印象でも大事な思い出だ。頑張ったなあ、と旅路を思い出す。
中央ザナラーンの酒房、コッファー&コフィン(宝箱と棺)
名前がいいよな。飲兵衛のキキルン族が群れて来たのを追い払って、お礼代わりに
酒を奢ってもらったっけ。今日は売れ行きが良かったから奮発するってヒトと、
偉そうな割に注文がみみっちいヒト、――うんうん。酒場ってこんな感じ。
クイックサンドみたいな大きなトコロもいいけど、小さいトコロのほうが好き。
ヒトがよく見える。
ウルダハは――ウルダハの近くは、そして難民がいるところは
ある意味で俺の帰るところだと思う。見捨てられないし放っておけない。
助けてもらわなかったら俺はエオルゼアに渡ってこれていない。
「冒険者」があの日、俺のいた岩窟に訪れていなければ。
冒険の話を、錬金術について教えてくれることをしなければ。
外部からの情報が、希望が、面白さが俺の岩窟に一度も齎されなかったら。
俺はきっと、水に沈んだあぶね。
俺にも怖いもんはある。思い出したくないホドのことが。
別に水に入るのは怖くない。泳ぐし潜る。
ただもしその腕に、脚に、体に、鎖が、縄が、重りがついていたとしたら。
まあ、まあ、普通に怖いよね。怖い。
――それは俺の部族の決まりだから。何も憎まないし不思議に思わない。
ゼラの戦士にはなれたけど。アジムステップの中で認めてもらったけど。
Tulkhuurには帰れないし、認めてもらえない。俺の帰る場所はなくなっている。
だから俺は――いや、理由を無理に固めたり、つけたりするのはよそう。
俺の帰る場所はたくさんある。心の帰るトコロ。
帰るべきトコロだろう。俺がヒトであるために、英雄であるために。
託されてきたものと、握りしめたモノを忘れないために帰るトコロ。〆
Tulkhuur族が暮らしているという岩窟。
名前の元ネタはマヤ神話における冥界の悪魔。
捏造された故郷。どこにあるかは現状不明。
(少なくともアジムステップ内ではない)