「よいしょっ。です」
ほてほて、と渡し板を踏み渡り、少女はほっと一息ついた。船を乗り継ぎ一昼夜、否応なく海上生活に慣れたとはいえ、やはり揺れない大地というのは安心感がある。
海洋都市国家、リムサ・ロミンサ。
海に面した崖や岩礁に多くの建物が並び、その間を縫うようにして数多の橋が渡されている。黒味を帯びた色調で統一された橋と、白っぽい岩肌と建物のコントラストは、海の青に慣れた目にはかえって鮮やかに映るようだった。いくつもの階層に分かれ、立体的に広がる複雑な街並みは確かに、繊細に編み込まれた女神のヴェールを思わせ、素直に美しい。
「わふー……。です」
僅かに湿り気を含んだ風が、頬を撫でていく。はふ、ともう一度深く息をついて、少女……ルゥミはゆっくりと歩を進めた。青みを帯びた銀の髪が、リズミカルに揺れる。
賑やかな人通り、見たこともない建造物。目に映るあらゆるものが珍しい。緑柱石に似た瞳を輝かせて、ルゥミはきょときょととあたりを見回しながら歩く。いかにも物慣れない、「新しくこの地を踏んだ冒険者」まるだしだとは思いつつも、実際その通りなのだから仕方がない。
少し歩いては立ち止り。立ち止ってはまた歩きだし。
往来の多い街中で、人にぶつからずにすんでいるのはある種の奇跡と言ってもいいかもしれない。
「そこの君!」
唐突に呼び止められ、不意にルゥミは足を止めた。
視線を巡らせると、そこには一人の男が立っていた。黄色の上着を着込み、背には戦斧を負っている。冒険者のようないでたちだが、どことなく「地に足着いた」雰囲気がある。あるいは「公的」と言ってもいいかもしれない。
男の衣装が、あまり薄汚れて見えないのも一因だろう。その日暮らしの冒険者というよりは傭兵、もうちょっと生活が安定して自警団かリムサ・ロミンサの正式な兵。人懐こさを見ると、自警団あたりが妥当かもしれない。
(領主の私兵あたりもアリかなぁ、です)
ぼんやりと無駄な思考を高速で巡らせていると、ルゥミと視線が合った男が、大きくうなずいた。
「そう、君。ついたばかりの冒険者だな?」
「……えと、はいです……?」
ルゥミの曖昧な返答に、男は安心させるように、にこりと微笑んだ。
「やはりそうか。リムサ・ロミンサを守るイエロージャケットの陸士、このリスフローが案内してやろうじゃないか。さぁ、こっちへ来るといい」
「え? え?」
おそらく手馴れているのだろう、リスフローと名乗った男が、ルゥミに大きく手招きした。無視するほど急ぎの用があるわけでもないし、そもそも右も左もわからぬ新参者なのだ、街のことを教えてくれるというのであればありがたい話である。
(ま、いいか。です)
ほてほてと頼りない足取りで、ルゥミは素直に歩み寄っていった。