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Juliette Blancheneige

The Meat Shield

Alexander [Gaia]

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『Fire after Fire』2(前)(『Mon étoile』第二部四章)改訂版

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01

 目を醒ました少女は、まず自分の居場所が牢獄でも手術台でも実験場でもないことに驚いた。
 柔らかなベッド。窓から柔らかな日差しが届けられる室内は広くはないが、清潔で穏やかな空気を漂わせていた。
「……え……?」
 少女は戸惑いながら身を起こす。柔らかで肌触りのいい寝衣。
 夢なのだろうか。
 あまりの落差に固まっていると、部屋の扉が開いた。男が一人入ってくる。
 背の高い男だ。顔立ちは整っているが、鋭い目付きとその下のクマが、狷介そうな印象を与える。
「気が付いたか」
 男が、意外にも優しそうな顔で微笑んだ。
「私はフィンタン。この塔の主だ。君を閉じ込めていた者どもの敵、と言えばわかるだろうか」
「あ……」
 気を失う寸前のことを思い出した。
 自分は機械のようなものに繋げられて、強制的に魔力を吸い上げられていた。それが何のためかは知らない。彼らは自分たちの『実験』を少女に説明しない。ただ、命じる。それだけだ。
 逆らえば酷い目に遭わされる。どんなに絶望しても自死さえ許されず、体も心もズタズタにされていた。
 そこに、この男――フィンタンが現れた。彼以外にも、少年少女が大勢いた気がする。彼らは少女を支配していた者たちに戦いを挑んだ。その最中に助け出され――意識を失ったのだった。
 改めて、自分の体を見る。
 あちこちに残る手術痕は変わらないけれど、それ以外の傷は治っている。身体の内部からの痛みもない。
 フィンタンを見る。ゆっくりと頷かれた。
「ああ。もう大丈夫。君を傷つけるものは、もういない」
「……!」
 涙が。
 溢れた涙が、ぱたぱたと音を立てて手の甲に落ちた。
「う……ぁ」
 掠れた声で、少女は泣いた。
 名前も過去の記憶も奪われた。何も覚えていない。教える必要はないと拒絶された。意識を持ち続けてからずっと、凌辱と絶望しかなかった。
 名前も過去の記憶も依然として戻ってこないけれど。意識を持ち続けてからはじめて、安心と安堵を得た。
「ぁあぁぁぁぁ……!」
 泣き続ける少女を、フィンタンが優しく抱擁した。ぎこちなく、けれど、だからこそ――真摯で暖かい抱擁だった。

2-1

 蒼茫洋に、一隻の船が錨を降ろしている。
 中型の帆船は優美な姿をしており、午後の日差しに白い船体を輝かせていた。
 しかし、奇妙なことであった。
 客船の航路からも貨物船の航路からもだいぶ外れており、見渡す限りに一隻の船影も見えない。
 やがて、その客船へと近付くものがあった。
 飛空艇だ。
 夕焼け色に染められた気嚢を持つ、ブロンコ級の飛空艇――『サンセット・スカイ』号。ノノノやリシュヤたち『アージ』の面々を乗せた飛空艇は、客船の甲板横へとぴたりとつけて停止した。
「到着ー! お降りの際はお足元にお気をつけくださーい!」
 気嚢と同じ髪の色をしたミコッテの少女――キ・ラシャが、飛び切りの明るさで到着を告げた。
「おう! ご苦労さん!」
 こちらも快活に応じながら、大柄なゼーヴォルフ――ハルドボルン・ディルストファルシンが甲板に降り立った。
「操船技術がすごい! ありがとう!」
 乗降用のタラップは甲板と平行で、そしてほんの数十フルムしか離れていない。ララフェルでも問題なく、軽く飛び降りればいい程度だ。ノノノはキ・ラシャの技術を称賛した。
「えへへ! あざーっす!」
 キ・ラシャが操舵輪を握ったまま器用におどけた敬礼をする。
「彼女はガーロンド・アイアンワークスに操船技術を学びに行くほどだから。技量はほんとうに素晴らしいわね」
 プレーンフォークの女性――ファタタ・ファタが、眼鏡の奥で目を細めた。
「ずっと憧れだったんす。だから、飛空艇乗りにしてくれた坊ちゃまにはマジで足を向けて寝らねっす!」
 晴れやかに笑うキ・ラシャに、最後列からゆっくりと歩いてきたアウラ女性――リシュヤ・シュリンガが言った。
「係留したらメシ食いに来いよ。エティエンヌに顔見せてきな」
「りょーかいっす! やったータダ飯!」
 小躍りするキ・ラシャを見て微笑みながら、リシュヤが甲板へと降りる。なんとなくそのやりとりを見つめていたノノノも、キ・ラシャに手を振ってから降りた。飛空艇は滑るようにその場を離れ、客船の船尾へと回り込む。
「いらっしゃい、リシュヤさん」
 甲板に立っていたフォレスターの青年が、にこやかにリシュヤへ微笑みかけ、優雅に一礼した。
 青年は二十代初めごろに見える。ノノノが今まで出会ったエレゼン男性の中で、一、二を争う整った容姿だ。翠緑の瞳。白に近い、薄い金髪。エレゼンとしては平均より低いが、すらりとした体躯。筋肉がさほどあるようには見えないが、身のこなしには荒事を潜り抜けてきた者特有のしなやかさがある。
「ん」
 青年の輝くような微笑みに、リシュヤはごく素っ気なく頷いて、彼の横を通り過ぎる。けれども、ノノノは二人の間に気安さを感じた。
 それから、青年はハルドボルンと友人たちがするようなハグをして、ファタタには貴婦人へする丁寧な礼をし、係留して戻ってきたキ・ラシャとハイタッチをした。ラクヨウはすでに船に乗っており、皆を出迎える側だった。
「キミがリシュヤさんの妹弟子? はじめまして。エティエンヌ・レルネと言います。皆の活動を陰ながらサポートしています」
 青年――エティエンヌが輝くような笑みをノノノに向け、礼をした。
「ども」
 エティエンヌ・レルネ。その名にノノノは覚えがあった。
「あ、ミスリルアイに載ってた人だ」
 ウルダハの経済紙、ミスリルアイ。そこで特集された記事を、ノノノはたまたま読んだことがあった。
 グリダニアの名家の跡継ぎ。それにそぐわない行動力を有し、グリダニア商人たちの支援や、他国の経済界へも積極的に進出する『グリダニア経済界の風雲児』。そう書かれていた。
「ああ、そういえばそんなこともあったね」
 にこやかにエティエンヌが笑う。紙面に載っていた肖像画よりも実物のほうがずっと綺麗だとノノノは思った。ただ、記事によれば年齢は二十六、七のはずだ。むしろそのまま描いたほうが嘘だと思われると判断したのかもしれなかった。現実のエティエンヌはずっと若く見える。
「僕はリシュヤさんのことをずっと前から知っていてね。彼女の力になりたくて、家を飛び出して冒険者をやっていた時期もあったんだ」
「それ読んだ」
 冒険者として、霊災前のエオルゼアで最強の一角と言われたリンクシェル、『ブルームーンライト』の一員となり活躍したという。それが、霊災を機に冒険者を辞め、家に戻りグリダニア復興に尽力した、と記事にはあった。それがリシュヤの力になりたいから、とは知らなかったが。
「うん。それ自体には嘘は無いんだけど、それにはもう一つの目的が隠されているんだ」
 エティエンヌがリシュヤに視線を流す。リシュヤは素知らぬ顔で海を眺めている。
「そのタイミングで家に戻れば、霊災復興のためだと誰もが思う。『アビス』が各国に伸ばした根を探り出すために戻ったとは、思われない」
「……うん」
「“陰ながら”というのはそういうこと。表向きには、僕と『アージ』には何の関わりもない。飛空艇はウチの商会とは関係ないリムサの会社が所有していることになっているし、会うのもこうやって監視しづらい海上とかで会うことが多い」
「徹底してる」
「うん。普段はラクヨウを通じて情報提供することが多いんだけどね。今回はキミに会いたかったんだ」
 エティエンヌは微笑みのまま、ノノノの手を取った。両手で、ノノノの右手をぎゅっと握った。
「リシュヤさんをよろしくね。彼女はすぐに無茶をするから」
 祈りを込めるように、エティエンヌは目を閉じて言った。掌の暖かさと握る力が、想いの深さを表している気がした。
「ん」
 ノノノが頷くと、エティエンヌはありがとう、と言って手を放した。
 わるいひとではなさそうだな、と思った。

2-2

 船内の広間には、たくさんの食事や酒が並べられていた。
「おおう! すっげえな!」
「やったー!! めっちゃおいしそう!!」
 ハルドボルンとキ・ラシャが歓声を上げ、顔を見合わせて笑った。
「まずは腹ごしらえといきましょう。仕事の話は、その後で」
 エティエンヌが告げた。
 長いテーブルに所狭しと置かれた食事と酒を、一同は存分に堪能した。なお、手酌だったし取り分けも自分たちで行うかたちだったが、それを気にする者はいなかった。
 食事は十分な量が用意されていたが、ハルドボルン、リシュヤ、ノノノが非常な健啖家だったし、エティエンヌもよく食べるほうだったので、こういった歓待の席には珍しく食事が残ることはなかった。
「しふく……」
 ノノノが、食後のコーヒーを一口飲んだ後にしみじみと呟いたので、一同は笑った。
「どういたしまして」
 エティエンヌが微笑む。それなりに酒を飲んだはずだが、顔色は全く変わっていない。それはリシュヤも同じだ。水のようにワインを飲んでいたが、酔った素振りはなかった。逆にハルドボルンはファタタに強く諫められ、早々に酒以外を飲んでいた。強いは強いが、限度を超えると眠り込んで起きなくなってしまうのだそうだ。
 使用人が来て、皿を下げる。代わりにごく軽い焼き菓子が出された。
「さて。始めましょうか」
 ファタタが促す。ラクヨウが頷き、説明を開始した。

 リムサ・ロミンサの海賊で、人身売買をしている者たちがいる。
 海賊といっても、三大海賊団とその傘下の海賊団ではない。
 現在は海賊禁止令が出ているため、公式には三大海賊団及びその傘下以外の海賊は存在しない、とされている。
 とはいえ、海賊が根こそぎ消滅したわけではない。相当数の者が、“非合法”の海賊行為を行っている。字義通りの“海の賊”になったわけだ。
 そういった人身売買をしている海賊団から、定期的に人間を買っている商人がいる。表向きの商売をしながら、裏では人身売買――というよりも、売買の仲介、いわゆる転売をしているのだ。
「彼らの『お得意様』が、高く買ってくれるようです」
 ラクヨウが淡々と説明する。
「その『お得意様』が、奴らだってことか」
「確定ではございませんが、かなり疑わしいというところです」
 ハルドボルンの問いに、ラクヨウが答える。その言葉を、エティエンヌが継いだ。
「既存の犯罪組織や邪教集団、秘密結社系で、その転売屋と繋がる線はなかったよ。もちろん、ガレマール帝国もね」
「なるほどね。彼らの“納入”現場を捕捉したら、『アビス』の拠点が見つかるかもしれない、ってことね」
「ご名答」
 ファタタの指摘にエティエンヌが頷く。
「転売屋はもう特定できておりますので、あとは取引を待って、『お得意様』を特定する段階まできています」
「……それが『アビス』なら本来の仕事として。もし外れても、そいつらを潰してイエロージャケットに事後報告、ってトコか」
 言って、リシュヤがグラスの中の冷水を飲み干す。クルザスで切り出された氷が何個も入ったグラスに、アバラシア山系の名水が注がれている。その辺の安酒など足元にも及ばない値のつく代物だ。
「然様(さよう)で」
 薄く笑いながらラクヨウが答える。
「いつだ」
「四日後。その日の夜に転売屋は出航の様子でございます」
「わかった」
 リシュヤが請け負う。
「出航、ってえことは船だな。どうやって追うよ?」
「ミラージュシフトだな」
 リシュヤが即答した。
「なにそれ」
 ノノノが問う。グラスに冷水を注いだリシュヤが答える。
「師匠んとこの魔法生物で使える奴がいるだろ。透明・無音化して監視とか追跡できるヤツ」
「あ、いた」
 言われて思い出した。主に外回りの仕事をするための者が有している能力のため、ノノノも詳しくは知らなかった。
「それができる奴が、ウチにいる」
「ウチ?」
「居住区の家に」
「家あったんだ!」
 ノノノは軽く驚いた。前回の仕事から今までの数日、リシュヤたちはウルダハの宿屋暮らしだったので、てっきり家はもっていないと思っていたのだ。
「ラベンダーベッドにな。お、そうだ」
 ハルドボルンが答え、立ち上がった。
「カウサフ連れていくなら、ノノノに紹介がてら家を見せとくか」
「“カウサフ”って言うのが、その魔法生物の名前ね」
 ファタタが補足する。それから、ハルドボルンと同様に席を立ち――リシュヤのほうを向いた。
「貴方は残るんでしょ?」
「ん」
 短く答える。エティエンヌが目を伏せて微笑んだ。いまひとつ状況が呑み込めていないノノノに、ファタタが退出を促した。
「じゃあリシュヤ。あとで合流ね」

 結局、船室にはエティエンヌとリシュヤが残り、他のメンバーは全員飛空艇へと移動した。話の途中で退出していたキ・ラシャがすでに船の甲板側へと飛空艇を移動させている。
「ああ、ラシャさん。リムサのランディングに寄っていただいてもようございますか? アタシはそこで降ります」
「あいっさー!」
 キ・ラシャがラクヨウに敬礼をした。
「サンセット・スカイ号、抜錨(ばつびょう)するっす!」
 彼女の号令と共に、飛空艇はするりと甲板を離れ、高度を取った。
「あの二人って」
 しばらくしてから、ノノノが口を開いた。
「そういう仲なの?」
「そう見える?」
「すごく気を許してるように見えた」
「そうね。深く追求したことは無いけれど」
「野暮だしなあ」
 ハルドボルンが頭を掻く。ファタタが続ける。
「あなたのお師匠様と、エティエンヌのお爺様がご友人だったそうよ。偶然知り合った食道楽仲間らしいけど」
 フィンタンは年に一度だけ外へ出て、一月ほど滞在することがある。そこで知り合ったのだろう。
「その縁で、リシュヤもレルネ家の人々とは旧知みたいね。姉と弟のように見えるときもあれば、恋人みたいに見えるときもある。いずれしろ、余計な詮索は野暮ね」

2-3

 ノノノたちがグリダニアに到着したのは日が落ちてからだった。キ・ラシャとは翌朝合流することにして、彼らは冒険者居住区――ラベンダーベッドへと向かった。
 中型のハウスは瀟洒な印象で、細部までよく作りこまれていた。
「これ誰がやったの?」
 ノノノの問いに、ハルドボルンが得意げに言った。
「実はな、俺だ」
「嘘はよくない」
「嘘じゃねえよ! 俺はもともと木工師なの!」
 ハルドボルンが慌てて抗議した。彼によれば本業は木工師と園芸師で、斧術は危険地帯に踏み入る必要が生じたときに仕方なく修得したのがきっかけだったらしい。そのうち冒険者として身を立てていくことになり、斧術も本格的に習ったとのことだった。
「だからここの家も庭も、俺のこだわりに溢れてるんだよ! 見ろこのプランターの出来! 最高だろ!?」
 腕組みをしてうっとりと周囲を見渡すハルドボルン。ファタタが苦笑して肩を竦めた。
「作ったのがハルドボルンなのは本当よ。だから貴方に家を見せたかったのよ、この人」
「なるほど……」
「まあ、それは後でもいいから。入りましょ。連絡はもう入れてあるから」
 冷たく言ってファタタは玄関へ進む。その玄関も俺の自信作! という声が後ろから飛んだが、ファタタは黙殺した。
「ただいま、カウサフ」
 ファタタが声をかける。奥の厨房と思しき場所から、貴族の使用人のような恰好をした青年が姿を現した。一見若いが、落ち着いた印象を受ける、金髪碧眼のミッドランダー青年。
 いかにもリテイナーという態でいるそれが、フィンタンの手による魔法生物であると、ノノノは一目見て気が付いた。内在するエーテルの“色”のようなものがわずかに違う。師のところで見慣れているノノノだからこそ気付いたのであって、他の者には見分けはつくまい。
 食材の調達など、外回りの仕事をする魔法生物はかなり念入りに見分けがつかなくしているのだと、フィンタンが言っていたのを憶えている。
「お帰りなさいませ。ファタタ様、ハルドボルン様」
 カウサフは優雅かつ丁寧な礼をしたあと、ノノノのほうを向いた。
「お初にお目にかかります。フィンタン様に創造された魔法生物、カウサフと申します」
「ノノノ・ノノ。フィンタンの弟子だよ。貴方は塔で見たことない気がする」
 ノノノの指摘に、カウサフは頷いた。
「ええ。私はもともと、情報収集を含む外回りの仕事を仰せつかっていましたので。十年以上前にリシュヤ様付きになって以降、塔へは年に一度のメンテナンス以外では帰っていません」
「そっか。なるほど初めましてだ。よろしくカウサフ」
 ノノノが手を差し出す。その手と顔を、少し驚いた顔をしてカウサフは見つめ、それから微笑んでその手を握った。
「よろしくお願いいたします、ノノノ様」
「カウサフ。話しておいた通り、今回は貴方の力を借りたいの。一緒に来てくれる?」
 ファタタの問いにはやや躊躇いがある。魔法生物を道具ではなく、ヒトと同列で扱っているのだと、ノノノは感じた。
「畏まりました。戦闘を想定するのでしたら、地下から装備を持ってきますが」
 外回りの仕事をする諜報目的の個体であっても、戦闘能力はある。ただ、純粋に戦闘目的で創造されている個体と異なり、専用の装備をすることで能力を向上させる形だ。
「……たしか、戦闘装備をすると今の一般人偽装が解けるのよね?」
「はい。デリケートな調整が必要なものですので、フィンタン様に調整していただく必要がございます」
「だったら無用よ。貴方はミラージュシフトを維持して飛空艇で待機していてもらいます」
「心得ました」
「四日後に出発します。準備をしておいて」
「畏まりました」
 カウサフが一礼するのを待ってから、ハルドボルンが待ちかねたように言う。
「終わったな? じゃあメシにしようや!」
「――は?」
 理解できない、という顔でファタタがハルドボルンを見た。昼過ぎにエティエンヌとの会食で相当飲み食いしている。
「嘘でしょう。まだ食べるの?」
「全然いけるぜ? お前もそうだろ? ノノノ」
 ハルドボルンもまた、ファタタに食べないのか!? という顔を向け、それから同志を求めるようにノノノを見た。
 正直全然いける。
 けれど、ファタタの呆れ顔が自分に向くのがちょっと後ろめたくて、
「……う、うん」
 若干気後れした態度で手を挙げた。
「決まりだな! カウサフの作る飯はうめえぜ!」
「あ、それは楽しみ」
「恐縮です。フィンタン様のご指導をお受けになっているノノノ様に比べれば拙いものですが」
「関係ないよう。人に作ってもらえるご飯はそれだけで極上」
「……彼の腕を見てもらいたい、というのは賛成ね。カウサフ、私にはごく軽くでいいわ」
「承知いたしました」

「しふく……」
 ノノノが、食後のコーヒーを一口飲んだ後に、昼間と全く同じ口調でしみじみと呟いたので、ハルドボルンとファタタは吹き出してしまった。
「そいや、ノノノはお師匠さんから料理も教わってんのか」
「ずっとじゃないよ。基礎を教えてもらって、あとは冒険者になってから調理師ギルドで鍛えた。おかげで、包丁の使い方が上手いって料理長に褒められた」
「あら。ということはクリスタル生成法だけじゃないのね」
「うん。手仕事も教わった」
「本格的ね」
「腕はたしか」
 サムズアップ。これは本当に自信があるので、若干自慢げな顔だ。ただし、実際はとんでもない組み合わせでも「やってみないと分からない」と言って試すので、パスファインダーズの面々には割と恐れられていたのだが。
「リシュヤとはえれえ違いだ」
「そうね。あの人料理一切しないし」
「そなんだ?」
 意外なことを聞いたと思ったが、でも思い返してみると、リシュヤは食事にはさほど執着していないように感じる。むしろ、酒や水など、飲む者に関してこだわりがありそうだった。
「そもそも、お前さんは今までリシュヤのこと知らなかったんだろ?」
「そう。ついこないだ初めて聞いた」
「俺たちの知る限り、この半年の間でも一回は戻ってるはずだな」
「……会ってない」
 最近のことはやむを得ないと思う。ノノノはノノノで塔を出て冒険者をやっているのだから。けれど、冒険者になる前の十何年で一回も姿を見ていない。
 ……あれ?
 そもそも、リシュヤは何歳なのだろう。
 見た目は自分と大差がないように見える。三十にはなっていないと思う。だとしたら、自分が師匠の元に来た五歳の頃にはリシュヤだって十歳にもなっていないのではないか。その年頃から、自分とリシュヤは分けて育てられていたのだろうか。
 それは、とても不自然な気がする。
「てか、リシュヤって何歳? 聞いてる?」
 ノノノの問いに、ハルドボルンとファタタは揃ってきょとんとした顔をした。
「聞いてねえなあ」
「そうね。特に必要と思わなかったから」
 二人が答える。その視界の端で、佇むカウサフをノノノは見た。
「カウサフ、知ってる?」
「……リシュヤ様は、ノノノ様には仰られていないのですね?」
「うん」
 であれば、と言いながらカウサフは目を伏せ、それから頭を下げた。
「申し上げることはできません。ご容赦を」
「なんか言えねえ事情があんのか」
「それがあるかどうかも。お答えいたしかねます」
 ああ? と眉根を寄せたハルドボルンに、
「余計な詮索は野暮、よ」
 ファタタが釘を刺した。
「言う気があるなら、リシュヤから言うでしょ。私はそれで気にしないけど――」
 ノノノへ視線を流す。眼鏡の奥で、アイスブルーの瞳が細められた。
「どうしても気になるなら、本人に訊いてみたら?」

 翌日、戻ってきたリシュヤへノノノは質問したが、
「あ? めんどくせえコト訊くな。オマエより年上で、師匠より年下だよ」
 という答えになっていない返事があっただけだった。

『Fire after Fire』2(後)へ続く
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