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Juliette Blancheneige

The Meat Shield

Alexander [Gaia]

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『Mon étoile』(2)前

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2-1

 第五西暦の時代に栄えたという、伝説の魔法都市マハ。黒魔法を生み出し、魔大戦を引き起こしたと伝えられるその都市は、第六霊災の津波に呑まれ消え去ったという。
 第六霊災という災いの爪は深くエオルゼアをえぐり、わずかに生き残った人々の暮らしは明日をも知れぬものだった。
 そんな環境と、霊災を引き起こした元凶への禁忌の情が、魔大戦の記録をごっそりと失わせた。
 今ではもう、マハは存在すら疑われている。
『マハは伝説に過ぎない。ベラフディア王国を創り上げたララフェルたちが、“箔付け”のために創作したおとぎ話である』 
 学究院でヤヤカが実際に言われた言葉だ。アラグ帝国の研究を行っているその教授は、遺跡や遺物という物理的証左を強く重視する人だった。
 確かにマハの物証は少なすぎる。しかし。ただのおとぎ話なら、なぜマハの伝承はエオルゼア中に残っているのか。そのままではなくとも、マハと推定できる伝説・伝承の類はこのアルデナード小大陸だけではなく、遠くサベネアの地まで残っているのだ。
 おとぎ話そのままではないだろう。
 だが、何かがあった。『マハ』と呼ばれた集団、あるいは地域、国家。それらがあったからこそ、伝承は残っているのではないか。
 おとぎ話そのままでなくとも構わない。
 マハと呼ばれるなにかが実在したことを、ヤヤカは解き明かしたい。
 だから。
 ヤヤカはヤフェーム湿地へ行きたかった。
 ヤフェーム湿地。そこは、ヤヤカが伝説や伝承を検証し、『マハが存在したであろう』と推定した土地だ。
 第六霊災の津波によって水没し、長い時間をかけて水が引き――湿地となったのだという。
 しかし、広大な湿地は怪物たちの住処であると報告されており、気軽に調査へと赴ける場所では無かった。
 未開の土地を調べるためには、力が必要だ。それも、物理的な、障害を排除するための力だ。親友の手ほどきで呪術士の初歩くらいはできるヤヤカだが、その程度の力ではまったく足りないことは自明だった。
 幸いにしてウルダハには最適な人材がいた。危険と未知に挑むもの、力なき人々の代わりに守り――ときに奪うもの。冒険者だ。
 だが彼らを雇うには、当然ながら資金が必要だった。加えて、滞在や調査のための様々な器具、安全な旅路のための計画、チョコボキャリッジのような移動手段。
 それらすべてに金が必要だった。
 ヤヤカは必死に働いた。
 研究よりも金策に費やす時間が多くなり、ストレスを溜めることも多々あった。
 どうにか幾人かの商人やギルドが、多額ではないが資金援助を申し出てくれた。結局父や兄の過去のつてに頼らざるを得ず、今さらながら、かつての自分がいかに恵まれていたかをヤヤカは思い知った。
 しかし、どうあれ資金は確保できた。自分で貯めた金と援助者の金。合わせれば何とか目途が立ちそうだとわかって、ヤヤカはいてもたってもいられずに知己のもとを訪れた。
 冒険者だった親友を通じ知り合っていた女性。ウルダハ冒険者ギルドの元締め、モモディ・モディ。

「――よく練られている、と言いたいところだけど、まだ甘いわね」
 ヤヤカの出した計画書を軽く流し見た後で、モモディはヤヤカに告げた。この計画では依頼を受けられない、と。
「……どうしてですか」
 霊災で親友を失った後も、ヤヤカはモモディと距離を置いていた訳ではない。むしろ会う頻度は増したと言っていい。霊災を生き残るためには皆が手を携えていかなければならなかったのだ。ヤヤカは錬金術師として、モモディから何度も仕事を受けていた。
 なのに。どうして突然突き放されるのか。
「結論を急がないで。わたしは『この計画では』って言ったの。つまりね」
 言葉を区切ると、モモディは店内を見渡した。クイックサンドは今日も喧騒に満ち、多くの商人、職人、そして冒険者で賑わっている。
「――あら、ちょうどいい。テオドール!」
 ちょうど今しがた店に入ってきた冒険者の一団に、モモディは声をかけた。正確には、その集団の先頭にいる冒険者に。
 フォレスターの男性だが、背はそれほど高くはない――といっても、そもそもエレゼンは人族の中でも高身長の部類だ。その中での話であって、ララフェルのヤヤカからすればバジリスクのように見上げる存在であることに変わりはない。
 すらりとした体躯に、頑丈そうな金属鎧を身に着けている。不思議と、ガチャガチャとした金属鎧特有の騒音はしなかった。盾と剣を背負っているところから見て、おそらく剣術士なのだろう。
「お呼びですか、モモディ」
 柔らかなで優し気な――悪く言えば頼りなさそうな声だった。見上げるヤヤカの前で、ブルーグレイの目が細められ、人当たりのよさそうな笑みがモモディに向けられていた。
「これ、読んでみてくれる?」
 ヤヤカの計画書を、モモディはそのエレゼンに手渡した。はい、と頷きながら、冒険者は綴じられた紙束をめくり始めた。
 意図がつかめず、ヤヤカはモモディに疑わし気な視線を向けたが、微笑みが返ってきただけだった。見知らぬ者に自分の渾身の計画をじろじろと見られるのは心外だった。それとも、この冒険者なら自分の計画に賛同してくれるというのだろうか。
「ふむ――」
 幾度か頷くと、エレゼンの冒険者は計画書を閉じた。
「拝読しました。――これは、貴方が?」
 初めて視線を向けられて、ヤヤカは戸惑った。その微笑から意図が読めない。このまま酷評されてしまうのだろうか。
「ええ。彼女はヤヤカ。考古学者さんなのは、それを読めばわかるわよね?」
「はい。失礼、申し遅れました。私はテオドール・ダルシアク。冒険者です」
 一礼するテオドールにエレゼン特有の尊大さはなかった。
「……ヤヤカ・ヤカです」
 硬い声で応じたヤヤカに、テオドールは笑みを返す。さっきからこの冒険者はずっと微笑を浮かべたままだ。そういう表情なのだろうか。
「で、どうだった?」
 モモディの問いに、テオドールは計画書に視線を落とした。
「現実的ではないです」
「……!」
 微笑みのまま切って落とされたので、ヤヤカは言葉を失った。
「計画書には、『湿地中央部まで野営を繰り返しながら移動し、遺跡を発見した場合にはその周囲の安全を確保し、ベースキャンプを設立』とありますね。これは、不可能です」
「そっ、それはアナタが無能な冒険者だからじゃなくって!?」
 咄嗟に罵声が口をついた。しかし、冒険者の微笑は崩れなかった。
「ヤフェーム湿地は、未開の地です。少なくとも第六星暦から今までの間、人が居住した記録はありません――私の知る範囲でですが。
 未開の地、ということは、そこに生息する動植物、そこにある危険地帯、そこにある環境エーテルの偏りなどが一切不明ということです。これは、とても危険です。
 例えばヤフェームに関する噂として、“怪物がいる”と知られてはいても、どんなモンスターなのかまでは伝えられていない。『門』『綱』『属』『種』のなにもかもが不明なのです。冒険者であれば、誰しもが厳しい条件だと感じるでしょう。
 また、風土病の存在する可能性もあります。未知の風土病に罹患した場合、どんな薬を用いればいいのか見当もつかない。これも、冒険者であれば大変厳しいと感じるでしょう。
 そのような未知の場所へ、いきなり奥深くまで踏み込むのは無謀です。
 それとヤフェームへのルートですが、北ザナラーンもしくはモードゥナから行くことはできません。帝国の基地がルートを塞いでいます」
「それは! 川を使うから、帝国の基地からは離れていて……!」
「記憶が確かなら、その川は帝国の偵察部隊が巡回しています。避けるに越したことはありません」
「……」
 立て板に水でなされた指摘に、ヤヤカは愕然とした。涼しい顔で淡々と指摘するエレゼンに感情的な反発を覚えたけれど、それ以上に自分の認識の甘さを思い知らされた。――この冒険者の言うことはおそらく正しい。未知のものと相対する厳しさを、ヤヤカは知っていたはずなのに。そんな当たり前のことを見落としていた。
 悔しくて。
 涙が出そうになった。胸の奥に昏い穴が開いて、そこへ計画も期待も夢も、これまでかけた時間も吸い込まれて消えていくような気がした。
「なので、分割しましょう」
「……え?」
「今回の現地調査は、『未開の土地の奥地へ踏み入るため』の調査とするのです」
「踏み入るための……調査?」
 予想外のことを言われ、ついオウム返しをしてしまった。すぐに気付いて恥じるヤヤカを見て、テオドールがくすりと笑いながら頷く。
「はい。湿地の外周を移動しながら、最初のベースキャンプにふさわしい場所を探します。そうして確保した場所を、外界との連絡・補給路として使用すれば、継続的な探索も可能となり得ます」
「つまり……時間と資金が、もっと必要……?」
「ええ。もしかしたら、私が言っていることのほうがより理想論かもしれません。そのための資金調達を考えれば、非現実的な机上の空論と言われても仕方がない。ですが、最初の案では自殺しに行くようなものです。それはお受けできない」
 必死で働いた結果が、最初の一歩だけ。それはヤヤカにはとてつもなく堪えた。しかも、それを継続しなければならないなんて。
 ――でも。
「働くのは大変だわ。とても。とてもとても大変だわ。……でも」
 知らずうつむいていた顔を上げる。テオドールが穏やかな笑みでこちらを見ていた。
「わたしはヤフェーム湿地に行きたい」
 それは決意と同時に希いだった。
「はい」
 無謀かもしれない願いに、テオドールは頷きを返した。その時だけ、エレゼンの冒険者は笑っていなかった。
 青い瞳が、真剣なまなざしでヤヤカを見ていた。
「でも、わたしには未開の地を探索するための知識が足りません。だから、計画から協力してください、テオドール・ダルシアク」
「喜んで」
 即答すると、テオドールは跪き、ヤヤカをまっすぐに見つめた。
「この計画書は無謀でしたが、そこに込められた貴方の情熱に魅せられました。そして一冒険者として、未開地への探索という言葉に心が躍ります。ぜひ、協力させてください、ヤヤカ・ヤカ」
 その顔が。
 まっすぐにこちらを見るその顔を。
 きれいだと、思ってしまったので。
「こっ……こちらこそ……! よろ、しく……」
 慌ててうつむいたヤヤカは、言葉を口の中からどうにか吐き出した。頬が熱いのを、知られたくなかった。
「お互いの意思は確認できたわね? それじゃあこの話、冒険者ギルドも噛ませてもらいましょうか」
 顔を上げるとモモディが笑っていた。見透かされたと思ったが、それよりも提案内容のほうが大事だ。
「テオドールたちへの報酬はギルドが支払います。その代わり、今回の調査で必要な資材の調達は、こちらが指定する業者にしてほしいのだけれど、どうかしら」
 願ってもない提案だった。ヤヤカは頷く。
「なら決まりね。これからよろしくね、ヤヤカ」
 モモディはそういうと、他所からの呼びかける声に応えてその場を去った。
「では、ヤヤカさん。こちらへ」
 テオドールがヤヤカに同行を促す。向かう先のテーブルには、先ほどテオドールとともに入店してきた冒険者たちがいた。
 一人はムーンキーパーの若い女性で、花の意匠を持つ杖を傍らに置いていた。幻術士なのだろう。
 そしてもう一人は、ララフェルだろうということまでしか分からなかった。なぜなら、店内でも目深に幅広の鍔の帽子を被り、ゆったりとしたローブに身を包んでいたからだ。しかもその顔は黒い包帯に包まれ、片目と口元くらいしか露出していない。禍々しい印象の杖を背負っている。呪術士なのだろうか。
「お待たせしました」
 テオドールが二人に声をかける。ヤヤカと同じ年くらいに見えるミコッテが笑顔で出迎えた。ララフェルのほうは無言だった。
「おかえりなさい! その方は?」
「新しい仕事の依頼人です。ヤヤカ・ヤカさん、考古学者の方です」
「――ヤヤカです……よろしく」
「はい! 幻術士のリリ・ミュトラと申します! よろしくお願いします!」
 一礼して、リリが屈託なく笑う。明るくて素直な印象だ。ただ、自分が偏屈で人付き合いが得意なほうではないと自認するヤヤカには、その明るさは少し苦手だった。
 リリは自分の挨拶の後に振り向き、ララフェルを見た。黒い帽子に黒いローブのララフェルは、こちらを見向きもせずにストローでジュースを飲んでいた。
「ノノ! 依頼人さんに挨拶してください!」
 ノノと呼ばれたララフェルは、ほんのわずかに顔を傾けた。ストローは口に咥えたままだ。
「…………ノノノ・ノノ」
 一瞬何を言われたか分からなかった。デューンフォークの名前だ、と気付いたときには、リリがノノノにもっとちゃんと挨拶をするようにと苦言を呈していた。ノノノは構わずスコーンを食べていた。
「彼女は黒魔道士なんです」
「え――」
 黒魔道士。禁忌とされた黒魔法を操るもの。その起源は伝説の魔法都市マハにあるといわれ――
「ど……どうやって!? どうやって黒魔道士になったの!?」
 思わず詰め寄ったヤヤカをノノノは無言で見つめ、
「…………」
 肩をすくめた。それだけだった。
「……ノノは、その辺りのことを教えてくれないんですよ」
 リリが、さらに問おうとするヤヤカを留めた。仲間にも言わぬことを、今あったばかりの者に言うはずもないだろう。ヤヤカは引き下がるしかなかった。
 そのとき、喧騒を割って一人のヒューランがテーブルまで歩んできた。
「おう、戻ったぜ」
 精悍な身のこなしのミッドランダーだ。短く刈り込んだ赤茶の髪に強い光を放つ黒い瞳。動きやすさを重視した革鎧と、背負った槍から槍術士と知れた。
「おかえり、メイナード。ミミオ少闘士は何と?」
 テオドールの問いに、メイナードと呼ばれた槍術士はにやりと笑って答えた。
「例の炎牙衆で間違いねえだろうとさ。報酬をはずんでくれたぜ。ほれ」
 取り出した革袋を、メイナードはリリへと投げ渡した。じゃらりと重そうな貨幣の音がする袋を慌てて掴むと、リリは槍術士へ尻尾を逆立てて怒る。
「もう、メイナード! お金は大事にって何度言ったら分かるんですか! ……ああもう、こぼれたらどうするんですか……」
 後半は口中で呟きながら、リリはテーブルに座りなおすと金貨を数え始めた。素早くかつ丁寧な扱い方だ。
「へえへえ。――ったく、いつの間にそんな金にうるせえ奴になったんだか」
「貴方と! 一緒に! 黒衣森を出てからですよ!! 貴方が後先考えなさすぎなんです!」
 怒鳴りながら、リリは金貨を数え帳簿をつけるのをやめない。肩をすくめたメイナードは、そこでようやくヤヤカのほうを見て、次にテオドールへ顔を向けた。
「で。誰だ」
「新しい仕事の依頼人です」
「ヤヤカ・ヤカ。考古学者です」
 慌てて名乗ったヤヤカを流し見ると、メイナードは片方の眉だけを器用に跳ね上げた。
「おいィ? 早すぎじゃねえか? 今日ザンラクから帰ってもう仕事かよ」
「文句を言わない。仕事は尊いですよ! あるだけ幸せです。精霊に感謝してください」
「いや精霊は関係ねぇだろうよこの際」
「大丈夫さ。すぐに出発じゃない。未知の土地へ探索に出る。準備を念入りにしておきたい」
 テオドールの説明に、メイナードはリリとの口論をぴたりとやめた。リリも、ノノノも、テオドールを見ている。
「未知の土地たぁ――穏やかじゃねえなあ。で。何処だ」
「ヤフェーム湿地」
 しばし、場に沈黙が流れた。その雰囲気で、ヤヤカは自分が行こうとしている場所が本当に危険な場所なのだと察した。
「…………マジでか」
「本気ですよ。少なくとも、ヤヤカさんにはそこへ行く理由と――情熱がある」
 テオドールがヤヤカを見る。その迫力のある視線にヤヤカは圧された。が、それでもなお、行きたい気持ちは小動もしなかった。
 うまく言葉が出てこなかった。代わりに、精一杯の覚悟を込めて頷いた。
「――おし! いいぜ。気に入った。俺はメイナード。メイナード・クリーヴズだ。よろしくな!」
 破顔するメイナードの後を継いで、テオドールがヤヤカへ微笑を向ける。
「この四人が、貴方をヤフェーム湿地までお連れします。改めて、よろしくお願いします、ヤヤカさん」
「――よろしく」
 ひざまずき差し出されたテオドールの手を、戸惑いながら握り返す。大きくて傷だらけの手だ。顔を上げるのが躊躇われて、ヤヤカは上目遣いにそっとテオドールを見た。
 青い瞳。優しい微笑が、こちらを見返していた。
 その微笑を――
 ヤヤカは、いつまでも忘れることが出来なかった。

(2章後編へ続く)
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