タンクとヒーラーはMIPを貰いやすいらしい。
確かに白魔道士でプレイしていると、私のような拙いプレイングでも結構貰えたりする。
これに関しては、プレイングが評価されているというよりも、「MIPはタンクかヒーラーに投げとけばいいんじゃね?」との判断が大きいと思われる。私も余程のことがなければタンクさんに入れている。
以下に紹介するのは、余程のことがあるといくらタンクといえども、MIPなど一つとして貰えないという実例である。
全く参考にならんこと請け合いではあるが、せめて反面教師にでもしていただきたい。
野良マルチから全力で目を背けつつ、コンテンツサポーターでタンクの練習を重ねる日々。実際のプレイスキルを置き去りにして、みるみる内にレベルだけは上がっていく。
そしてレベル41になり、ストーンヴィジルに挑めるようになった時、思ったのである。
「レベリングルーレット、行ってみるか」
タンクの野良マルチデビューを神の采配任せにするなど無謀もいいところではあるが、しかし勝算は無くもなかった。
現時点でコンテンツサポーターを用いて練習出来るIDは、全て回った。
タンクを始めた私の心をへし折ってくれたサスタシャについては、復習の甲斐あってそこそこスムーズにこなせるようになったように思う。
他ロールでプレイしている時は、親を追う子カルガモのように、先導するタンクさんに付いていくしかなかったカッパーベル銅山やハウケタ御用邸も、なんとか手順と順路を把握出来た。
討伐戦も、コンテンツサポーターのDPSたちに炎獄の楔の処理を任せたところ地獄の火炎で全滅したことを除けば、大きな問題はなかった。
ストーンヴィジルはやや雑魚敵の攻撃が厳しいものの、私の拙いバフ回しでもなんとかなったのでなんとかなる、多分。
タンクの誘導が肝となるゼーメル要塞やオーラムヴェイルに至っては、今のレベルであればそもそも選出されない。
残る問題は、コンテンツサポーターも冒険者小隊も実装されておらず、ソロでは予習が出来ないコンテンツ。
具体的には、カッターズクライとカルン埋没寺院である。
しかしカッターズクライとて全く知らない場所というわけでもなく、ボスの対処の仕方は頭に入っている。道中もそんなに迷うような構造でも無かったはずだ。道中スキップ全力ダッシュは知らなかったことにしよう。
そうすると残された懸念は、もはやただ一つ、進行ルートを開くために雑魚敵の誘導が要求される、カルン埋没寺院のみ。ここさえ引かなければ、多分きっとおそらく何とかなる。
機は熟した。
これはタンクとして野良マルチデビューする最後のチャンスであると、私にしては珍しく、非常に前向きに考えたわけである。
そしてレベリングルーレットに申請して、FF14を始めたての頃のようにビクビクドキドキとその時を待つ。
ほどなくして、耳慣れたシャキーンの音が響き渡る。さすがタンク、マッチングも早い早い。
画面が暗転し、「LIGHT PARTY」の表示。
果たしてレベリングルーレットに選出され、私の眼前に現れたのは、在りし日の荘厳さを今なお漂わせる、古びた廃墟。
分不相応の前向きさを抱いた私に対する神の罰のように、カルン埋没寺院の攻略が始まったのだった。
カルン埋没寺院の攻略自体も初めてではない。
初見未予習で突入したら1ボスでわけもわからぬまま即死した思い出以外は特に印象も強くなく、普段ならどうってことのないダンジョンである。
しかし、だ。
カルン埋没寺院に限った話ではないが、タンクで突入するとなると、慣れたと思っていたIDが全く別の様相を顕にする。
順路を無駄なく進むにはマップやギミックを頭に入れておく必要があり、敵を集めて戦闘を開始する場所もタンク次第である。これらを意識しようとすると、既知の情報では全く足りず、私は攻略済みのダンジョンの全てを一から予習し直すことを余儀なくされた。
この過程で、特にタンクの重要性を痛感させられたのがハウケタ御用邸である。
進行の仕方、安全な戦闘のための誘導等々、タンクの工夫次第で攻略の円滑さがガラリと変わってくるのだ。今まで何気なくクリアしていたダンジョンにこれほどのエッセンスが詰まっていたことを知って、私は改めて自分の勉強不足を思い知るとともに、タンクさんへの感謝の念を強めるのだった。
話が逸れてしまったが、要はタンクの練習無しで突入するIDなど怖くて怖くてたまらないということである。全くの初見ではないのでポイントは頭に入っていないこともないが、知っているのと実際にやるのとではえらい違いだ。
無慈悲なルーレットの神と無鉄砲な自分を罵りたいのは山々ではあるが、ひとまず私はスタンスをオンにした。
選ばれたもんは仕方がない。とにかくタンクがスタートせんことには攻略も始まらないのは、今まで私も散々見てきた通りである。
一応、タンク練習中につき迷惑をかける旨を挨拶に添える。効果は未知数。
吐き気をこらえながらなんとか最初の戦闘をこなした私は、先頭として先に進もうとした。
が、私が進もうとしたのは、完全に明後日の方向だった。幸いすぐに気が付いてマップを確認し、慌てて振り向く。そして目に入ったものに、私はマウスを取り落しそうになった。
地下に向かう階段の前で、召喚士さんが猛然と飛び跳ねていた。ピョンピョンと、正しい道はこっちだと主張するように。
モニタの向こうの召喚士さんの胸の内など推し量りようもないが、その瞬間、私の脳内では「ヤバい」の三文字がアラートのように繰り返し響き始めた。
召喚士さんに心の中で平謝りしながら順路に戻り、その曲がり角で目に入ったものに、私は再びマウスを取り落しそうになる。
ルガディンの忍者さんが、腕を組んで立ち止まっていた。ゴツい風貌も相まって、ゴゴゴとジョジョっぽいオノマトペが聞こえてきそうなものすごい威圧感である。モニタの向こうの忍者さんの胸の内など推し量りようもないが、ヤバいアラート音のボリュームが跳ね上がったことは間違いない。
ごめんなさいごめんなさいと一人テンパっても、とにかく先に進むしかない。私の初タンク野良マルチの行き先に、早くも暗雲が立ち込めるのだった。
その後はパーティの皆さんの迅速な処理のおかげで蜂に刺されることもなく、なんとか1ボスに辿り着く。
まあ、ここに関しては特筆すべきことはそれほどない。
即死のギミックはあれど、知っていたらどうということもない代物、誰も引っかかることはなかった。タンクの注意点としては乱入してくる蜂の敵視を取ることだが、ここはちゃんとこなす。
2度目の死の宣告をやり過ごしたところで、何の問題なく1ボスは撃破した。
そう思った瞬間である。
倒れたのは、1ボスだけではなかった。
同時に、満タンに近かったタンクのHPもゼロになって倒れたのである。
「は?」と声に出ていたかもしれない。なんでやねん、と。
冷静になって考えれば原因は明白だ。ギミックを処理すべく私が床を踏もうと思った瞬間に光が消え、デバフ解除がなされなかったのだ。とんでもない大間抜けである。
私が「は?」と思ったその瞬間には白魔道士さんが蘇生を入れてくれたので、デバフアイコンが取れていないことに彼もしくは彼女は気づいていたと思われる。
宣告された死が刻一刻と迫っていることにも気付かずに嬉々としてボスを殴り続け、残り少ない生を謳歌するタンク。100日後どころか数秒後に死ぬ哀れな生き物を見守っていた、モニタの向こうの白魔道士さんの胸の内は推し量りようがない。むしろ怖くて推し量りたくもない。
未予習のタンクが怖いといっても、まさかここで躓くとは思っていなかったので、いよいよ自分の精神状態がまともではないことが嫌でも自覚される。私の行き先にはもはや暗雲どころか光化学スモッグが濛々としていた。
そんなことがあった後も、攻略は進んでいく。
蘇生したてで衰弱したタンクを、パーティ全員で介護しながら。なんとも締まりなく切ない絵面である。
そして私は、当攻略最大の懸念箇所に辿り着く。
ご存知、モアイっぽい石像をスイッチに誘導して扉を開く、例のギミックである。
しかし懸念していたとはいえ、要は敵視をとってスイッチの上まで敵を運べばいいだけの話である。ほら、言葉にしてみればこんなに単純ではないか。既にチョンボを重ねている今、もう失敗は許されない。
出来る!俺なら出来るはずだ!
そんな精神状態では出来るものも出来るはずがなく、モアイはあえなくスイッチの手前で転がるのだった。
その刹那、過去の情景が脳裏に蘇った。
以前カルン埋没寺院に白魔道士で突入した際、今の私と同じく石像の誘導に苦戦するタンクさんがいた。私は「タンクって大変やなあ」と、思いっきり他人事でタンクさんの誘導をボーッと見ていたものである。
しかし今なら、同じ境遇に陥った今の私なら、あの時のタンクさんの気持ちがわかる。
とにかく、居た堪れないのだ。
石像が転がって復活するまでの時間は、精々数秒であろう。
しかし数秒とはいっても、プレッシャーに苛まれながらただただ突っ立って待つ虚無の時間は、驚くほどに長い。他人の時間を奪っている申し訳無さ、ギミックを失敗した恥ずかしさ、失態を重ねてしまった不甲斐なさ。そうした感情が居た堪れなさとなって、石像よりも重くのしかかる。
懸念は当然のごとく現実になり、この時点で私のカルン埋没寺院攻略、及び野良マルチデビューは失敗したも同然と言えよう。ちなみに石像ギミックの失敗は一度ではないことも合わせて記す。誠にごめんなさい。
私の敗北が確定したとしても、攻略が終わってくれるわけではない。
扉を開けた後は、セオリー通り2体の石像を無視して、誰も立ち止まることなく突っ走る。しかしここでも一つの疑問が頭をよぎる。
突っ走るのはいいが、この場合タンクはどうすべきなのか?
別に何も考えずに走っていればよいのか、それとも範囲攻撃の一つは食らわせてヘイトを稼ぐ方がいいのか。
いきなり降って湧いた疑問が解決するわけもなく、私一人で混乱している間に石像たちは去っていった。求む答え。
2ボスについては、本当に書くことがない。タンク以外にも攻撃が飛ぶが、そんなことを苦にするメンバーはおらず、哀れ守護者はボコボコにされたのであった。
その後も、先述の通り石像の誘導に失敗した以外はつつがなく進んだ。
ワニにしばかれ、天秤の真ん中を調べ、3ボスと戦う。
最大の山場であろう3ボスも、特に何も起こらない。
ギミックは他の面々が滞りなく処理してくれたので、タンクとしては本当に楽をさせてもらった。さすがに何もしないわけにもいかないので、私もスタンと詠唱中断を入れたりして必死に仕事してる感を出す。時既に遅しであるとしても。
あっさりと3ボスを撃破し、私も即死することなく、今度こそ本当に攻略が終了した。
天を仰ぎ、大きく息をつく。
終った。
色んな意味で。
思い返してみると、顔から火が出るほどに拙い進行である。私を除名することもなく辛抱強く付き合ってくれたパーティの皆さんには、申し訳無さしかない。
居た堪れなさに支配される私を尻目に、メンバーの人たちが猛スピードで退出していく。
モニタの向こうの彼ら彼女らの胸の内など推し量りようもない。私が勝手にありもしないプレッシャーを感じて独り相撲を演じていただけの可能性も大いにある。
もはや知りようもない考えてもしようのないことの中にも、しかし厳然たる事実は存在する。
彼ら彼女らは、謎のムーブを連発する謎のタンクから、ようやく解放されたのだ。
私も遅れて、コンテンツから退出した。
MIPは貰えなかった。
以上が、私のタンク初野良マルチの顛末である。
ここまで書いて自分でも頭が痛くなるが、あえてこの話から教訓を見出すとするならば、この一言を置いて他にあるまい。
「いいから落ち着け」
タンク最大の敵、それはプレッシャー。
乗り越えるには、あまりにも高く聳え立つ壁である。
今回の経験で改めて、コンテンツサポーターと野良マルチの、天と地ほどの違いを思い知らされた。
あるいはこの教訓こそが、ルーレットの神がもたらした、増長しつつある新米タンクへの慈悲だったのかもしれない。
※なんだかタンクのネガキャンみたいになっているので断りを入れておくと、タンク自体はとても楽しいです。
というわけで以下の点でオススメです。
・ダンジョンの理解が深まる。
・パーティのリーダーとして攻略を自分のコントロール下に置いている感じがしてやりがいがある。(俺は未経験)
・スムーズな進行が出来ると皆に感謝され、自分も気持ちいい。(俺は未経験)
みんなもタンク、やろう!
(了)