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Selenophos Reqi

Under the Moonlight

Carbuncle [Elemental]

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【小説】月影挿話 第1話 斬りたがり

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月影挿話 第1話「斬りたがり」



「ちょっと洒落にならんぞ!」
「シャレニナランゾ!」
 尻に帆をかけてマディソン船長が逃げ出すと、彼のコリブリも後に続いた。
 手下を見捨ててまで全力疾走するものだから、冒険者たちも追いすがろうとはしなかった。呆気にとられたというのもあるが、この先の暗がりに罠や伏兵が待ち受けていないとも限らない。深追いは禁物だ。
「チッ! あの野郎逃げやがった!」
 冒険者ギルド期待の新鋭たちも舌打ちする他ない。
 否。
「逃がさない……!」
 小さく、それでいて強く短い決意を吐くと、女が駆けた。
「おい! 待て、新入り!」
 仲間の制止も聞かず、湿った岩肌を蹴る。エオルゼアのものではない異国の片刃の長剣を鞘から抜き放ち、風さえ潜り、避けるように。
 体に遅れてついてゆく、黒い鱗のしっぽがひょろり。
 どこか楽しげにひょろひょろり、と。
「なんだアイツ、鉄砲玉か?」
 そんな呆れ声すら置き去りにして、逃げる船長を女は追った。

 女の名はレキ。
 姓はない。
 どこぞから流れてきたアウラ・ゼラの新米冒険者だ。
 溺れた海豚亭のバデロン曰く彼女は元海賊という触れ込みだが、今回の依頼主であるイエロージャケットには当然秘密であった。というのも、不逞な輩の出入りするこのサスタシャ侵食洞が海賊の隠れ処ではないか、調査し事実であれば掃討せよという依頼なのだ。
 なにも御上にそれほど正直になることもなく、それでいてその経験が役に立つのではと機転を利かせたバデロンの期待は果たして正しかっただろうか。

 ともあれ、レキは侵食洞を駆け抜けた。
 クァールのねぐらに仕込んだ隠し扉を盤石と信じて疑わなかったのだろう。海賊”海蛇の舌”の連中は洞内に罠も据えず、警戒もずさん。挙げ句の果てには仲間同士で酔って乱闘をおっ始める始末。
 レキの、左右の色の異なる瞳は、逃げるマディソンの背を捉え続けた。間合いまであと数歩というところまで。
 だが、届かない。
「あれ? オカシラ?」
「うっぷ……もう飲めねぇ」
「って、なんだテメェ!」
「どっから入り込みやがった!」
 溜り場で飲んだくれていた海賊たちが一斉に気づき、手に手に得物を取った。わらわらと立ちふさがる下っ端。そのまま逃げ去る親分。
 さしもの鉄砲玉も足を止めた。
 互いの間合いの外でじりじりと対峙。仲間が駆け寄る気配を背中で感じたレキだが、それを待つつもりなどなかった。
 洞穴特有の冷えた空気が風と啼き、首筋をひんやりと撫でる。
「……みんな斬っちゃおう」
 ぺろりと唇を舐めると、言葉とは裏腹にレキは刀を鞘へと納めた。ひんがしの国だかドマだかの落武者だと嘯く老海賊に教わった、でたらめな居合の構え。
 実を言えば彼女は”海蛇の舌”一味をひと目見たときから、全員斬ろうと心に決めていたのだ。別段、自由を尊ぶ海賊だのにサハギン族の手先になった奴らが許せないなんて格好の良い理由ではない。
 海賊”海蛇の舌”はその誓いの証として、顔に青い刺青を施す。もう真っ当な人間社会に戻れない決意の表れなのだろうが、そのデザインが、そのセンスが、レキの個人的な美的感覚に反していた。
 ただただ、その見た目が気に入らない。
 ただただ、顔の青い刺青が気に喰わない。
 ただただ、それだけの理由で。
「野郎共! やっちまえ!」
 レキは鯉口を切った。



 肉にナイフを入れながらそこまで話すと、向かいに座る兄が訊いた。
「それで、その某いう船長は斬れたのかい?」
 定宿で共に暮らす兄は妹と同じく無愛想でぶっきらぼうだが、レキだけは彼の優しさをわかっていた。
 彼は彼女のすべてをいつだって受け入れてくれるのだ。豊穣海で海賊船に乗っていたときも、サベネア島で売れない踊り子をしていたときも。
 食卓の燭台が炎を揺らす間、レキは事の顛末を思い起こした。
 マディソン船長の末路は彼女の望んだものではなかった。あくまで、その手で斬らなければ意味などないのだから。
 世の中、なかなか思うようにはいかないものである。
「んー」
 手元のナイフが大山羊の肉を切り分けると、赤身を覗かせた。今夜のステーキはミディアムレアだった。
「……斬れなかったんだ」
 このとき口をとがらせたものだから、それからの焼き加減はウェルダンになった。




つづく

月影挿話 第1話「斬りたがり」 主演:月の影のレキ
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