新緑の隙間からさす木漏れ日に、緑髪からピョコっとウルフ耳を突き出しているララフェルの少女は目を細めた。
オークガーデンベンチに根付くように座る少女の傍には大量の本とサンドイッチバスケット。
今日も彼女は自宅で悠々自適と過ごす。
彼女がくつろぐこの地ラベンダーベッドは、グリダニア領黒衣森より連絡船に乗り、半刻ほど河を下ってたどり着く冒険者居住区。一際目立つ巨大な樹を中心に広がるその街並みは自然との調和を何より重視している。「花咲くラベンダーベッド」と多くの冒険者たちが呼ぶその純朴な風景は、戦いに疲れた多くの人々の心を癒してきた。
今日もそんな冒険者居住区に惹かれ、新たな隣人が引っ越してきたようです。
=================
「ここを初心者ヒカセンたちの拠点にしたいと思います!」
木々のざわめきを一蹴するような声をあげたララフェルの男性は、一つの門の前でそう告げた。
緑髪のララフェルの少女はなんとなしに本から顔を上げ、唐突な宣言をした主を見つめます。
数は10以上におよぶでしょうか、フレッシュな顔ぶれの冒険者達が隣の門の前に集まっています。
(....新しい隣人は、初心者支援LSの主催のようね)
聞くまでもなく自己紹介をしてくれたマスターらしきララフェルから視線を戻し、読んでいた本の続きの文章を探す。
ハウジングエリアにおいて、住居人の入れ替えはさして珍しいことではない。
今回はわかりやすい目的がある分、長く留まる可能性も高いかもな、となんとなく少女は予想する。
とりあえず有望なヒカセンたちに成長することを内心で祈りながら、和気藹々と話が進んでいくフレッシャーズ達をわずかな口元の微笑みで迎えた。
話しかけないの、だって?
とんでもない。
私は平穏が大好きなんだ。
何より本の続きが気になるし、また今度だ。
....また今度ね。
=================
隣にフレッシャーズが引っ越してきてからしばらく経った。
あれからお隣さんはさらに勢力を拡大したらしく、最初に見たときに比べ明らかに人数が増えてきている。
中には、歴戦の猛者しか獲得しえない装備を身に着ける人も見かける。
確定穴どころかマテリアフル禁断なんて人もちらほら(当然、横からこっそり盗み見した)
どうやら最前線のヒカセンたちがフレッシャーズに目をつけたらしく、支援に情熱を注いでいるようだ。
初心者たちもそんな熟練者たちの教えを喜んで受けている。
きっと、いいことなのだろう。
この世界は道半ばにして引退する冒険者が後を立たない。
PTプレイで息が合わないだの、単純に孤独に耐えられないだの、言われもない誹謗中傷を受けたとか...
そんなトラブルから身を守ってもらえるだけでも、初心者はお節介さんたちによる安全の保証と、何よりも仲間がいる安心感を支えに花開く可能性がグッとあがる。
少女は相変わらずサンドイッチを頬張りながら、ひがな1日ベンチに座って(たまに寝そべったりして)彼らのいく末を見守っていた。いや、見守っているようにみせかけてただただグータラしながら夢想していた。
(私にも、あんな風に純粋に笑っていた時期があったっけな)
遠巻きに聞こえる彼らの笑い声が、なんとも心地よかった。
===================
さらにそこから月日が経った。
彼らの笑い声は、だいぶ減った印象を受ける。
出入りする人も少なくなった。
というか初心者さんを全然見かけなくなった。
風の噂に聞くところ、どうも初心者たちと熟練冒険者たちで軋轢があったようだ。
今はエオルゼアの転換期。いわゆるパッチ直後という状態だ。
鳴りを潜めていた冒険者たちもあたらしいコンテンツに心奪われ、例に漏れず皆とびだしていく。
では彼らに追いついていない初心者さんはどうなるかというと、ぶっちゃけ放置しかないだろう。
多分、この辺でトラブルがあったか、察した初心者さんが寄り付かなくなったか、詳細はわからないがそんなところだろう。
よくよく耳をすましてみれば、零式云々だったり4層云々だったり、野良ヒカセンがああだこうだというようなおおよそ初心者LSとは無縁そうなワードが飛び交っている様子が聞こえた。
少女はなんとなしに考察するも、特に気に留めることなく相変わらずベンチで変わらぬ味のサンドイッチを頬張っていた。クガネで大量に仕入れた抹茶が意外なほど合ったので、これも最近追加で飲んでいる。最近のお気に入りセットだ。
別にクラフターに専念しているわけでもないので、無駄飲みっちゃ無駄飲みなのだが....うん、わびさびって大事だよね。
==================
どうやら隣のマスターさんが失踪したらしい。
メンバー(といってもほとんど初心者さんはいない、イツメンって感じの方々)が突然の事態に慌てふためいている。
少女の元にも「何か知らないか?」と問合せがきたが、当然なにも知らない。というかアナタに話しかけられたのが最初の接点ですがなにか。
==================
翌日、ハウスは消えていた。
どうもサブマスさんが存続する気はないと公表し、LSを解体したようだ。
直接関わってはいなかったが、一部始終を見てしまった少女としては、なんとも苦虫を噛み潰すような後味が心にじんわり広がっていくのを感じた。
(まぁ...特に被害があるものじゃないが...)
相変わらず新緑の木々から変わらぬ木漏れ日が、緑髪のララフェルの目に映る。
所属してた初心者さんとかってどうなるんだろうと漠然と考えている。
(諸行無常だなぁ。ここの風景は変わらないのにね)
サンドイッチを一口かじり、空き地になったお隣さんから手元の本に視点を戻す。
それっきり彼女はその跡地も、そこにいた初心者たちの姿も意識することはなかった。
================
新緑の隙間からさす木漏れ日に、緑髪からピョコっとウルフ耳を突き出しているララフェルの少女は目を細める。
オークガーデンベンチに根付くように座る少女の傍には大量の本とサンドイッチバスケット。
今日も彼女は自宅で悠々自適と過ごす。
おや? どうも隣が騒がしい。
今日も新しいお隣さんが越してくるようです。