わたしの名はウェ黒福江、人呼んで“ペロるゥせぇるすまん”……。
せぇるすまんと申しましても、ただのせぇるすまんではございません。
私の取り扱う品物はココロ…そう、人間のココロでございますョ。
ホーッホッホッホこの世は、老いも若きも男も女もココロの淋しい人ばかり…。
そんな、みなさんのココロのスキマをお埋めいたします。
いいえ、お金は一銭もいただきません。
お客様が満足されたらそれが何よりの報酬でございます。
さて、今日のお客様は……
名前:星井(ほしい) 羽生栖(はうす)
28歳 職業:無職(光の戦士)ホーッホッホッホ第1話:夢のハウジング
星井「はぁ。買える訳ないかぁ。」
もし。土地でもお探しですか?
星井「え?どこから声が??」
???「ここですよ。あたなの足元です。」
星井「うわぁっ!!! これは失礼。」
???「いいえ。いいんですよ。私、趣味で床ペロしていただけですので。」
星井「床ペロ。。。どういう趣味ですか。。。」
???「そんな事より気に入った土地が無いようですね。
ご予算の都合がつかないのでしょうか?」
星井「いやー。困ったものです。予算はあるのですが、肝心の土地がちっとも空いてないんですよ。」
???「それは苦労しますなあ。世の中は需要と供給で成り立っていますからね。
家を建てたい需要があっても、土地の供給が無いのでは売買は成り立ちません。
あ、申し遅れましたが私こういうものです。」
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|ココロのスキマ❤
|お埋めします
|ウェ黒福江
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星井「ああ。セールスの方でしたか。道理で契約済みの土地のまわりにいたわけだ。」
ウェ黒「ところで私にお手伝いさせていただけませんか?
ボランティアなもので、仲介料などは一切頂きません。
一杯ひっかけながら詳しいお話をお聞かせください。」
BAR 魔の巣
ウェ黒「なるほど。星井さんは光の戦士でございましたか。
高名な方だったのですね。存じ上げず失礼しました。」
星井「いいえ。有名になったなんていっても私の事を知ってるのは一部の人間だけですよ。
それに光の戦士なんていっても報酬は雀の涙。
満足いく報酬が得られるのは副業の採収や制作の活動のときだけ。皮肉なもんです。
やっとの思いで土地とハウスを買うためのまとまった金額を用意できたのですが。
あいにく、そのときには土地は全て売り切れ。
土地に空きがでたという情報を聞いては東へ西へ走り回りましたが、全て空振り。
その結果、今日に至るという訳です。」
ウェ黒「ほおー。それは大変でしたね。
しかし光の戦士といえば各都市を巡るのでしょう?
定住のイメージはありませんがね~。」
星井「私はただ家が欲しいという事では無いのです。
ハウジングがしたいんです。家具の種類や配置など着想は固まってます。
けど家が無いんじゃハウジングなんて出来ません。
やっぱり夢のマイホームでハウジングなんて夢のまた夢なんですかね。」
ウェ黒「諦めてはいけません。私にお任せください。
実はあなたにふさわしい物件を紹介して差し上げられるのです。
次の日曜日に案内ますので、このご住所にお越しください。」
日曜日星井「えええ!ウェ黒さん!こんなに立派な家を紹介いただけるのですか。
きっとお高いんじゃないですか!?」
ウェ黒「いいえ。お金は結構です。
この家の家主が長期出張で第一世界へ行っておりまして留守なのです。
家を空けておくとすぐに痛むというでしょう?
普通に住んで生活頂くだけで大丈夫です。
元あった家具も倉庫にしまってさえくれればハウジングもし放題ですよ。」
星井「なんと!そんないい話なんですか。是非にでもお願いします。」
ウェ黒「はい。もちろんですよ。」
ウェ黒「・・・ただし。これは私からの忠告です。
ハウジングに夢中になるのは構いませんが、あなたの仕事は”光の戦士”として世界を救う事です。
夜更かしをして体調を崩すことなんてあってはいけません。
23時までには必ず寝てください。でないとあなた。
・・・大変なことになりますよ。」
星井「え、ええ。。。分かりました。
肝に銘じておきます。。。」
二週間後星井「よーし!今日も十分ハウジングを楽しんだぞ!
ほんとにハウジングが出来るようになって夢のような生活だよ。
おっと、もう22時半か。明日も朝から蛮神討伐の依頼があることだし、そろそろ寝るかあ。」
ピンポーン!
星井「ん?こんな時間に一体誰が・・・」
星井「え。木工ギルドの大将じゃないですか。」
大将「よお~!星井おめーが新しくハウスを手に入れたって聞いたからよ。
こうやって飲み会の帰りに俺がつくった家具もってきてやったんだよ!
ちょっと今から中を見せてくれよ。構わねーだろ?」
星井「え!ありがとうございます。
ただ今日はもう寝ないと。」
大将「あん?俺が祝ってやるっていってるんだよ。
それを帰れって言うのか。そんな態度だと制作の仕事はもう、まわしてやれねーけど。いいんだな?」
星井「ううう。それは困ります。
分かりました。どうぞ上がってください。」
大将「そうそう。それでいいんだ。お邪魔するぜ~
おおお!立派な家じゃねーか。
家具の配置もセンスあるな~!俺にもハウジングしてるところ見せてくれよ。」
星井「えへへ。それじゃあ、せっかくなのでお見せしましょうか。
秘技!ダイニングセット全浮かせ!!!」
大将「すげー!!!食卓・椅子・料理まで全部浮いたぞ!!!
よーし。木工ギルドの若い衆も呼んで、酒盛りだーーー!!!」
星井「あははは。ハウジングを人に見せるって本当に楽しいなあ。」
・・・
翌朝ウェ黒「星井さん。おはようございます。」
星井「え!?もう昼過ぎ!?蛮神討伐の約束の時間、とっくに過ぎてる!!!」
ウェ黒「ええ。蛮神は他の光の戦士達が倒してしまいましたよ。
ところであなた私との約束を破りましたね。
どんな事になっても知らないと私は口を酸っぱく言いましたよね。」
星井「いや。次回こそは必ず遅れないようにします。許してください。」
ウェ黒「ホーッホッホッホ。
もしかしたら今回の討伐にあなたが行かなかったことで世界が滅んでいたのかもしれないんですよ。
光の戦士に次なんてないんですよ。」
ウェ黒「もうあなたはハウジングだけを一生楽しんでください。」
ドーン!!!!!!
星井「わあああああ!!!!!!」
数か月後家主「ただいまー!出張帰り!!!
久しぶりの我が家!!!
なーんて言っても誰もいる訳ないんだけどね。」家主「ん?家具が何かおかしいような。。。」
家主「えええええええええ!!!!!!!」
何故、誰も彼もハウスを求めるのでしょうか。
起きて半畳寝て一畳というように必要最低限で人間生きていけるはずなのです。
しかし、これで星井さんもハウジングし放題ですね。
趣味が高じて家具そのものになってしまいましたので、ハウジングされる側ですかねえ。
ホーッホッホッホ最後に。
今年の4月、藤子不二雄(A)先生の訃報には驚きました。今まで面白い漫画を沢山読みだしてくれてありがとうございました!あなたの作品の不思議とユーモアに満ちている世界観に何度も引き込まれました。