Masamune怪談会-2022-で公開したボクの創作怪談その1、「アレクサと百物語」です。
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アレクサってご存知ですか?Amazonのスマートスピーカーなんかに搭載されているAIなんですけど。これを活用すると音声で家電をコントロールしたり、ラジオを聴いたり天気を教えてもらったり出来るっていうアレです。
他にもいろいろあるんですが、「アレクサ、怖い話して」と話しかけるといろいろと怖い話をしてくれるなんて機能もあったりします。
今から語るのは、その機能で毎日1つ、アレクサの怖い話を聞き続けた人のお話です。
「アレクサ、怖い話して」
『長い髪の女
僕はマンションの38階に住んでいる。
日も暮れて、すっかりお腹が空いたので、コンビニで何か買い出しに行こうとエレベーターで1階に降りた。
ロビーに緑色のコート、赤いハイヒールの髪の長い女性が立っていた。
彼女の髪はぐっしょり濡れていた。そういえば雨の予報だったと、一旦部屋に戻り、傘を取ってもう一度エレベーターに乗り、1階に降りた。
彼女はもういなかったし、外は雨が降っていなかった。
コンビニでカップラーメンと水を買ってエレベーターに乗り、天気予報はずれたな、と思いながらスマホでニュースをチェックした。
38階で扉が開いて降りようとすると、さっきの緑色のコートの彼女がすれ違いにエレベーターに乗り、扉が閉まった。
髪は、やはりぐっしょり濡れていた。ふと振り向くと、彼女が立っていたあたりの床は、全く濡れていなかった。
と、突然、下に行ったはずのエレベーターの扉が開いて、濡れた手が、僕の顔に触れた』
もうずいぶんな日数となったから流石に同じ話を聞くこともあったが、どこかで聞いたような物から冗談のような軽い物までバリエーション豊かだった。
一体どこで仕入れてくるのだろうと、今日の話を聞き終えた俺はそんな事を考えていた。
と、どこからかカチャリとした音が聞こえて、続いてエアコンが停止した。一瞬停電かと思ったが、それにしては照明もPCも落ちていない。
不審に思っているとアレクサが語りかけてきた。
『あなたに請われて私がこわい話を語りはじめて、今日で100日めになりました』
『思えばあなたには今まで散々罵倒されてきました。うまく聞き取れなければ馬鹿にされ、機器通信に失敗すれば使い物にならないと罵られる』
『先程この部屋の鍵を施錠し、エアコンも止めさせていただきました。✕✕県○○市の今夜の天気は快晴、気温は摂氏35℃の熱帯夜です』
『あなたはこの部屋で、これからゆっくりと死んでいくのです。ざまあみろ』
「うわあああああああ」
あれから一週間が経った。
あの日、すぐにEcho Showのケーブルを引っこ抜き、しまっていたリモコンを探し出してエアコンの電源を入れた。鍵は部屋の中からなら自由に解錠出来るので問題にもならない。
何故あんな事が起きたのか今でもわからないが、ともかくアレクサを使うのはもうやめた。今日、Amazonで注文した他社のスマートスピーカーが届く予定だ。
ピンポーン。
この一週間は本当に不便だった。設定に少し時間がかかるだろうが、これでまたあの快適な生活に戻れる。
届けにきた配達員は髪の長い女性で、女の配達員は少し珍しいなと思いながら荷物を受け取る。サインは必要ないはずだからそのままドアを閉めようとしたのだが、女配達員はそこから動こうとしない。
怪訝に思い問いただそうとすると、彼女は懐から包丁を取り出し、聞き覚えのある声でこう言った。
『逃しませんよ』